3.異性の部屋に出入りする老人
介護施設内での入居者同士の恋愛模様は珍しいものではありません。僕が働いていた施設でも複数ケースあり、人間は何歳になっても恋愛する生き物なのだなと感じていました。けれど、だからといってあっさり容認するわけにはいきません。
介護施設は共同生活の場であり、大っぴらな行動をされると困ります。他の入居者からの苦情に繋がるためです。そして、介護施設には1人で入居していても、既婚者の方も多くいるのです。
80代の男性入居者Cさんと70代の女性入居者Dさんは、2人でいることが多いなあと職員が気付いた時には、すでに恋愛関係が始まっていました。共同スペースで会話する程度であれば構わないのですが、その思いは強くなったようで、
頻繁にDさんの居室に入ろうとするようになっていきました。一方のDさんもまんざらでもない感じで……。
他の業務も多いため常に監視しているわけにはいきません。Dさんの部屋で、2人きりでいる姿を何度か発見しました。注意を繰り返す度に、双方ともに徐々にストレスを抱えるようになってしまいました。そしてある日、注意した職員に対してCさんは「何が悪いんだ!」と激怒。
恋愛にのめり込んだ2人は他の入居者とのコミュニケーションが減っていき、2人きりの世界に入ってしまっていました。
恋愛が悪いわけではありませんが、介護施設はあくまでも多くの人たちが共に暮らす生活の場。
“大人”だからこそしっかり自重してほしいものです。
4つ目は、訪問介護でのお話。訪問介護とは、自宅などで生活する利用者のもとを訪れて、滞りなく生活を送れるようサービスを提供するものです。そのため、介護施設で提供するサービスに加えて、買い物や掃除なども業務の1つです。
Eさんは独身で、自宅は1人暮らし用のマンション。そのため部屋や浴室はさほど広くないうえ、部屋には荷物が少なくて片付いていました。通常であれば、それほど難しい業務ではありません。ところがEさんは、
極めて細かい性格の持ち主でした。
掃除の順番や使う用具には、すべて細かな決まりがありました。また、
我々が掃除している間、全体が見渡せる位置に置いた椅子に座って、無言でずっとこちらを見つめているんです。もちろん、我々に向けられるのは暖かい視線ではありません。通常はコミュニケーションとして会話しながら掃除を進めるケースも多いのですが、Eさんは話しかけても返ってくるのは返事のみ。
浴室の掃除では順番が完璧に決まっているだけでなく、1滴の水滴も許してはくれません。完璧に拭き上げないと指摘されます。もちろん、すべてのお宅でキチンと掃除することを心掛けてはいますが、介護士は掃除のプロではありません。一軒ごとにかけられる時間も決まっています。仕事とはいえ、職員は徐々にその利用者の自宅を訪れたくなくなってしまいました。
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介護業界の厳しい現状がお分かりいただけたことかと思います。一人ひとりの特性が異なるからこそ、難しい舵取りを強いられるわけなのです。入居者の方が“介護する側”に多少なりとも配慮していただければありがたい次第なのですが、そうも言っていられないから、人手不足の現状を招いているのだと思います。
<TEXT/さおやさおだけ>
元介護士で国家資格・介護福祉士所持のフリーライター。好奇心旺盛で雑食。多種多様なジャンルに興味あり