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“近代日本の象徴”だった名作レトロ建築の世界。爆破解体された「朝鮮総督本庁舎」を写真で振り返る

もう見ることができない、絢爛豪華なインテリア

エントランスホール天井のドーム型のステンドグラスは、レースのような繊細な文様と落ち着いた色調が美しかった

正面玄関の階段を上がって館内に入ると、エントランスホールにはさらに階段があり、その頭上を仰ぐと5階吹き抜けの天井にはドーム型のステンドグラスが光を落としていた。 その大きさやレースのような繊細な文様は、日本の近代建築史上最高のステンドグラスと思える美しさだった。

中央大ホールの上部に掲げられた大壁画。洋画家・和田三造の筆による「羽衣」

階段を上がると、開放的かつ雄大な中央大ホールに導かれる。高いヴォールト天井の明かり採りの窓が洋画家、和田三造が描いた大壁画「羽衣」を浮かび上がらせていた。 床一面に広がる圧巻の大理石のモザイクは、朝鮮地元産のものを使用していた。

大理石で飾られた、きらびやかなエレベーターホール

ホールの三方には2層の開放的な回廊を巡らせ、正面には手すりが流麗なラインを描く対の階段を設置。その階段を上がった奥には、天井全面がバロック様式による漆喰装飾で覆われた大会議室が続き、豪奢でボリュームのある空間が展開していた。

中央大ホール後方にあった大会議室。天井を覆う装飾は古典主義だが、ディテールの解釈が独創的

大会議室の暖炉上の重厚な装飾

戦後この庁舎で大韓民国の成立宣言が行われ、長らく政府の中央庁舎として使用されていたが、1986年に国立中央博物館に転身。韓国にとって歴史上の負の遺産として、金泳三大統領の命によって1995年に取り壊された。 現在は解体された残骸の一部が、天安市にある独立記念館の野外に展示してある。 <文/伊藤隆之、後藤聡(エディターズ・キャンプ) 写真/伊藤隆之> Architect Data 所在地:大韓民国ソウル特別市  設計:ゲオルグ・デ・ラランデ、朝鮮総督府営繕課  施工:朝鮮総督府直営、清水組  竣工年:大正15年(1926)  解体年:平成7年(1995)
1964年、埼玉県生まれ。早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。舞台美術を手がけるかたわら、日本の近代建築に興味をもち写真を学び、1989年から近代建築の撮影を始める。これまでに撮影した近代建築は2,500棟を超え、造詣も深い。これまで、『日本近代建築大全「東日本編」』『同「西日本編」』(ともに監修・米山 勇 刊・講談社)、『時代の地図で巡る東京建築マップ』(著・米山 勇 刊・エクスナレッジ)、『死ぬまでに見たい洋館の最高傑作』(監修・内田青蔵 刊・エクスナレッジ)などに写真を提供してきた。著書には『明治・大正・昭和 西洋館&異人館』(刊・グラフィック社)、『看板建築・モダンビル・レトロアパート』(刊・グラフィック社)、『日本が世界に誇る 名作モダン建築』(刊・エムディーエムコーポレーション)、『盛美園の世界』(刊・名勝盛美園)がある。
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もう二度と見ることができない幻の名作レトロ建築 もう二度と見ることができない幻の名作レトロ建築

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