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明徳義塾の馬淵監督が「松井秀喜を5打席連続敬遠した」理由。“勝利へのこだわり”が選手に与えたもの

「今の高校野球の王道」には反しているかもしれないが…

馬淵氏は伝統的なチームづくりを行うが、今の高校野球の王道には反しているともいえる。計算が立つ制球のいい投手を選び、大型のスラッガータイプよりも、小さくても動ける選手を優先し、小回りが利く選手を使うのだ。コントロールが良ければ守備にもリズムが生まれ、打撃にもいい影響が出る。実際のところ、2002年夏の甲子園で優勝した時のエース田辺佑介は、6試合51回2/3を投げて四死球は12だった。9イニング平均で見ると、わずか2.09である。 野手に関しては、守りから鍛えていき、攻撃面では1番打者と3番打者のタイプを多く育て、走力や選球眼、出塁率を重視している。スカウトをする中学生に関しても、パワーや力強さではなく、バランスの良さと足の速さを見ている。基本的には、ディフェンス力を意識しており、派手な野球をして勝ち上がっていくチームづくりではない。

ミスを最小限にするチームづくり

これについて、森岡などを擁し、全国制覇を果たした2002年夏のチームに関しても、「2002年に明徳義塾が優勝した時、冬場、一切、打撃をやらなかったんです。打撃練習を1日もやらず、2月末から始めたんですが、その年の練習試合(チーム全体で本塁打を)50本打って、甲子園でも7本打ったんです」と話す。 また、「(2002年夏に)優勝したときは平均身長が172センチやった。ウチが49代表で一番小さかった。体が小さくても守ってつないでいくような野球やってたら、優勝できる可能性もあるということなんよ、野球は。お客さんのために野球やってるわけじゃない。プロはホームラン見たさにお金払って来てて、それで敬遠したら『金払え』と言われる。でも、CSとか勝たないかんようになったら敬遠だって平気でやる。ヤンキースだってやるんやから。オレはトーナメントでやってるんだ。冗談じゃないよ」とコメントするほど、堅い野球を見せる。 このディフェンス力を意識したチームビルディングは、非常に理にかなっている。短期決戦では、いかにミスをしないかを重要視すべきなのだ。プロ野球とは異なり、高校野球なら緊張感やプレッシャー、慣れない球場などから失策はつきものである。 そのため、失策を最低限にすることにより、勝率が上がるのだ。また、チームの統制を整える上で、上級生への配慮も欠かさず、同等の能力ならば上級生を起用することも意識している。さらに、主将は上級生の投票で決めており、監督が一方的に決めるのではなく、あくまで選手を主体としており、監督と選手が上手く伴走していることがわかる。
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スパルタ指導から脱却し、今の時代に合わせた指導を
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野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディアの取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。日刊SPA!にて寄稿に携わる。Twitter:@godziki_55

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