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「もともと細身だった」フルート奏者の女性が「ベンチプレスで110キロ」挙げるまで 「生き方を変えられてよかった」

 ベンチプレス女子57キロ級で活躍する上原麻依さん(42歳)。今年行われたノルウェーでの世界ベンチプレス選手権では銅メダルに輝くなど、実績は十分だ。そんな彼女の本業は、なんとフルート奏者。プロとして舞台に立ちつつ、後進育成にも力を注いでいる。筋トレと楽器――一見交わらない2つを極めようとあがく、彼女の人生に迫った。
上原麻依

上原麻依さん

祖父の後押しでフルートをはじめる

上原麻依

世界ベンチプレス選手権で銅メダルを手にした

 上原さんが生まれ育ったのは茨城県。幼少期からフルートへの憧れがあった。それは祖父への憧憬によるものだ。 「私の祖父は生まれつきの弱視で、視力はほぼありませんでした。祖父が生きた時代は戦前戦後という激動で、いわゆる障害者が就職することは今よりもずっと困難でした。一方で祖父は楽器ができた人で、ピアノやヴァイオリン、そして横笛などを巧みに演奏して、お金をもらうなどしていたようです。一緒に住んでいたため、なかでも祖父が横笛を演奏する姿はとてもよく覚えています」  上原さんが中学校へ上がる頃、祖父は病気で施設生活を余儀なくされる。印象に残る会話などもほぼないながら、横笛を演奏する姿を脳裏にはっきりと残した。また、こんな一面もあったという。 「祖父との直接のやり取りで印象的なものはないのですが、私がフルートをやりたいことを知ってくれていて、両親に掛け合ってくれたようです。両親は楽器について無頓着な人で、『ピアノだけやっておけばいいの』という教育でした。実際、私はピアノを習っていたものの、フルートをやらせてもらえるのはずっと先なんです」

両親に土下座して入部の許可をもらう

 念願のフルートを手にしたのは、中学校に入ってからだ。上原さんが入学した中学校の吹奏楽部は、大会で南関東の代表校に輝くなど、音楽エリートが集まる強豪。時間的な拘束もきつく、当初両親は入部を許さなかった。 「部活は朝6時の朝練に始まり、夜は21時まで練習が続きます。当然、高校受験の準備をする時間もあまりありません。両親はこうした理由から、首を縦に振りませんでした。そこで私は、吹奏楽部の隣で活動しているパソコン部に入ることにしました。でも音が聞こえてきて、思いが募るんですよね。結局、どうしてもフルートをやりたくて、私が土下座をして『勉強も手を抜かない』と約束をすることで、入部は許可されました。中学1年生の終わりごろの話だと思います」
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音大進学を志望するも、現実は厳しく
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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