ニュース

日本の原油価格を直撃?ラテンアメリカに対する日本の姿勢が問われるベネズエラ危機

 “遠い国”の話のように見えるベネズエラ情勢。だが、同国には戦前に移住した日本人コミュニティーがあり、少ないが主力企業の駐在員が働いている。今後も圧力が続けば、原油価格や日本企業の進出戦略、さらに日系移住者の生活にも影響を及ぼす可能性がある。  アメリカのトランプ政権が、南米ベネズエラへの圧力を強めている。軍事行動も辞さない構えだ。今年3月にはギャング組織のメンバーとされるベネズエラ人200人以上を、中米エルサルバドルの刑務所に国外追放したと発表した。「アメリカに麻薬を密輸しているから」と主張しているが、これは大義名分に過ぎない。真の狙いは世界トップの埋蔵量を誇るベネズエラの石油資源であり、かつ現職の大統領であるニコラス・マドゥロが主導する政権を倒すことだ。  一見、アメリカとベネズエラの対立のように見えるが、ベネズエラの背後にはイランや中国、ロシアといった国々との関わりがあることは忘れてはならない。ラテンアメリカで中国やロシアの影響力が急速に強まる中、日本の外交的プレゼンスの低下も指摘されている。ラテンアメリカでの対中外交の立て直しは、日本の経済安全保障を考えるうえでも避けて通れない課題だからだ。  現地での取材経験を元に、国内で報道されていることの「奥の奥のそのまた奥」に入り、ベネズエラ問題の核心を探っていきたい。

野球もミスコンも強い国 その秘密は「石油資源」

アメリカとベネズエラの良い関係を表す地図

カリブ海を挟んでアメリカと向かい合うベネズエラ。1999年に反米派のチャベス政権が発足し、’13年以降はマドゥロ大統領が継承。深刻な経済・政治危機に直面している 画像/Adobe Stock

 ベネズエラは南米大陸の北部に位置し、アマゾンの熱帯雨林を構成する国の一つだ。カリブ海と大西洋に面し、北西部にはアンデスの山々が伸びる。  日本でもなじみのあるところでいうと、キューバと並ぶラテンアメリカの野球大国である。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の常連で、日米のプロ野球界に名選手を輩出している。日本球界では、ヤクルトや巨人、DeNAでプレーし、外国人として初めて「名球会」入りした元プロ野球選手・監督のアレックス・ラミレス(’19年に日本国籍を取得)がベネズエラ出身の代表格だ。  また、美容産業の発展も目覚ましい。「ミス・ユニバース」「ミス・ワールド」「ミス・インターナショナル」「ミス・アース」を世界規模で開かれるミスコンテスト(ミスコン)の「ビッグフォー」と呼ぶが、ベネズエラはこの「ビッグフォー」で通算で24回優勝しており、他の追随を許さない。ミスコンへの出場は女性の成功の道の一つとされ、国内ではモデル養成学校やミスコンの専門学校などミスコンで勝てる女性の育成システムも整っている。  野球とミスコンの強さを支えるのは、埋蔵量で世界トップの石油資源だ。20世紀初頭に大油田が発見され、各国への原油輸出が盛んになり、1950年代には南米でもトップクラスの高所得国となった。  20世紀初頭、石油産業で働いていたアメリカ人がベネズエラに野球を持ち込み、「富の象徴」のスポーツとしてベネズエラ国民は夢中になった。また、オイルマネーで高価な外国製品が多く輸入されたことで、服飾、メイク、化粧などへの憧れがベネズエラ国民に芽生え、これがミスコンへの強いこだわりにつながった。  その一方、石油開発による発展は、持つ者と持たざる者の大いなる格差も生み出した。99年軍人出身のウゴ・チャベスが社会主義を掲げて大統領に就任してからは、国が一変する。チャベスは石油の恩恵を受けなかった低所得層から絶大な支持を取り付けて当選、貧困層への支援策を打ち出す一方で、強硬な反米路線で国際社会と対立した。  その後、国営石油会社の経営の失敗や失政などが重なり、ベネズエラ経済は急速に悪化した。国内外からの反発を抑え込むために、その政治体制は独裁色を強め、同じく反米路線を打ち出す中国、イラン、ロシアとの関係が深まっていく。
次のページ
「反米の絆」で結ばれた各国との関係
1
2
3
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
記事一覧へ