更新日:2026年02月19日 16:39
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渋谷でゴミ拾いを続ける29歳の正体とは?発達障害、うつ病、婚約破棄の過去も…「ゴミ箱を増やしたくない」行政の思惑にも言及

 2026年6月から東京・渋谷区がゴミのポイ捨て行為に対して、罰則金2000円を科す条例が施行される。コロナ禍以降に訪日客や若者などの流入が増え、路上での飲酒やゴミの置き去りが問題になったことで制定された。そんな渋谷で、真っ向からゴミ問題に立ち向かう“ヒーロー”がいる。その謎の人物の活動に取材班が密着した。

発達障害とうつ病を抱えながら、8年間ゴミを拾い続けているスミレンジャーZさん

 平日、朝8時。待ち合わせの渋谷駅ハチ公前広場にお手製のヒーローマスクをかぶった、黒と白のスーツに金色のアーマーを付けた男が現れた。彼こそ、アルバイトを掛け持ちしながら、8年間にわたってゴミ拾いを続けている“リアルライフヒーロー”ことスミレンジャーZさん(29歳)だ。ゴミ袋や特製のほうきとちりとりを大柄のキャリーカートに載せた彼は、道玄坂を登りながら淡々とゴミ拾いを始めた。 「早朝に清掃業者が入るのでパッと見はきれいなんですけどね」  そう話す彼が、道路沿いの穴が開けられた配電盤や壊された車止めに手を入れると、紙くずやペットボトル、空き缶、食べ残しの生ゴミなどが詰め込まれていて、まるで即席ゴミ箱だった。ほかにも、排水溝にはふやけた吸い殻が浮かんでいて、それを手やトングを使ってゴミ袋に入れていった。  大通りから裏路地に入っていく。ラブホテル街に向かう階段は路上飲みスポット化していて、酒の空き缶やウイスキーの空きビンなどが散乱。また階段と雑居ビルの隙間をほうきで掃くと、使用済みのゴムやら「ラブブ」らしき人形、精力剤の空き瓶まで現れた。スミレンジャーZさんは、「エリア的には使用済みのオトナのオモチャ、コスプレ衣装なんかも多い。モラルもそうですけど、『ここは捨てても大丈夫だろう』と思われやすい場所にゴミが溜まっていく」と憤る。ほかにも、閉業したラブホテルの敷地内には、回収されなかった事業ゴミが無造作に投げ込まれていた。

道玄坂から一本入った路地裏にはゴミが散乱して、巨大ネズミの姿も多く見られた

廃墟と化したラブホテルには束になったビニール傘やカセットコンロまで捨てられていた

渋谷のゴミが減らない理由は「利権絡みの構造」

 クラブ帰りの若者や通勤に急ぐ社会人が、彼の横を通り過ぎていく。立ち止まるのは、 “本物”と勘違いして面白がる訪日外国人ぐらいだ。 「注目されるためにやっているわけじゃないし、パフォーマンスではない。朝10時までには終わらせないと通行人が増える。トラブルに巻き込まれたというヒーローもいる。だから黙々とやるだけ」  約1時間半の清掃で、200リットル収納の大型キャリーカートは、ゴミ袋10袋近くでぱんぱんに。近くの公園でゴミの分別をしたら、最後に活動記録として収拾したゴミの山を写真に撮ってXに投稿。これにて本日の任務は完了だ。
まがいさん(写真左)は、スミレンジャーZさんの“相棒”として清掃活動を手伝っている

まがいさん(写真左)は、スミレンジャーZさんの“相棒”として清掃活動を手伝っている

 現在、彼は渋谷区議会議員と連携し、蓋付きゴミ箱の設置の普及支援などにも取り組んでいる。 「ゴミ箱を増やすのがいちばん効果的ですが、行政は『区民の税金で負担を強いるわけにはいかない』として拒んでいる。しかし、それはゴミがなくなったら問題ありきのビジネスが止まる。ポイ捨てした人への過料はいいと思いますが、店舗のゴミ箱設置の義務化は意味がない。行政主導ではなく、店舗側に責任転嫁しているだけ。そういう利権絡みの構造がはびこっている限り改善しないですし、区長をはじめ、まともな議会にならないと根本は変わらないです」  多くの政党から「議員に興味ないか?」と誘われているそうだが、「現地の目線を持って身近な問題を解決する地域のヒーローでいたい」と断っている。
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ヒーローの自宅は家賃5万円のワンルームで「質素な生活」
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