36万円超の「折りたたみiPhone」で本当に変わるもの。Appleが狙う“検索をなくすAIの支配”
9月9日、Appleは同社初の折りたたみ型スマートフォン「iPhone Duo」を発表した。閉じれば5.4インチのコンパクトなiPhoneだが、開くと7.6インチ。日本では10月16日から予約を受け付け、23日に発売される。256GBモデルで36万4800円、2TBなら57万4800円に達する。
発表直後、当然ながら最も注目を集めたのは値段だった。同容量のiPhone 18 Pro Maxより12万5000円高い。国内メディアでは「40万円近いスマホ」と驚きの声が上がり、海外でも「欲しいが高すぎる」「折り目は長く使っても大丈夫なのか」「Apple Pencilが使えるならiPad miniの代わりになる」と評価は割れている。AppleはSamsungより7年以上遅れて折りたたみ市場に参入しただけに、「いまさら折りたたみiPhoneなのか」という見方が出るのも不思議ではない。

だが、こうした議論だけを追っていると、iPhone Duoでもう一つ起きている変化を見落とす。
Apple自身がこの端末で前面に出しているのは、折りたためることだけではない。開けば「iPhone史上最大」という7.6インチの画面になり、二つのアプリを同時に動かす。そこへ再設計されたiOS、Apple Intelligence、Siri AIが組み合わされる。つまりAppleは、一日中持ち歩くスマートフォンに、これまでタブレットやPCへ移って行っていた作業まで引き戻し、その中心にAIを置こうとしている。
ここで問いは、「36万円の折りたたみiPhoneにそれだけの価値があるのか」から少し変わる。
スマートフォンが単なるアプリの入れ物ではなく、AIに「何をしたいか」を伝えれば、その先の検索、アプリ、サービスまで選んでくれる端末になったとき、人間とデジタル世界の間で最も強い場所を握るのは誰なのか。
iPhone Duoで本当に見るべきなのは、折り目ではない。Appleがスマートフォンとタブレットの境界を薄くし、その「入口」にAIを置き始めたことなのである。
そもそも、折りたたみスマートフォンはAppleの発明ではない。Samsungは2019年に初代Galaxy Foldを発表し、閉じればスマートフォン、開けば7.3インチの大画面になる製品をすでに実現していた。Huaweiも同じ年にMate Xを発表している。つまりAppleは、この市場では7年以上遅れて参入した後発組である。
それでもAppleの参入が無視できないのは、折りたたみ技術が特別だからではない。AppleにはすでにiPhoneとiOS、App Store、Apple Silicon、各種サービス、そして世界中のアプリ開発者がいる。端末の形を変えるだけでなく、「この画面なら、こう使う」という作法そのものを大量の利用者と開発者に広げる力を持っている。
実際、iPhone DuoではiPhoneとして初めて「Split View」が導入された。二つのアプリを横に並べ、Safariを二画面開いて商品を比較することもできる。Appleによれば、Netflix、Zoom、Slackなどの他社製アプリもすでにDuoの大画面に対応している。
Appleが一社ずつ命令しなくても、利用者が増えれば開発者は新しい画面構成を前提にアプリを作るようになる。便利だから対応が増え、対応が増えるからさらに便利になる。これがプラットフォームの強さだ。
これまでApple製品には、かなり分かりやすい役割分担があった。iPhoneは常に持ち歩く端末、iPadは大きな画面で読む、見る、作業する端末、Macはさらに本格的な仕事をする端末という具合だ。
Duoは、この境界を一部崩す。電車の中では閉じたまま普通のスマートフォンとして使い、席に着けば開いて二つの資料を見比べる。Safariを二つ並べて価格を比較し、片側に文章、もう片側に別のアプリを表示することもできる。Apple自身、Duoを「iPhone史上最大のディスプレイ」と位置づけ、マルチタスクを大きな売りにしている。
MacやiPadが不要になるという話ではない。重要なのは、これまで別の端末に移らなければやりにくかった行動の一部が、一日中持ち歩くiPhoneの中で済むようになることだ。
Appleが増やすのは販売台数だけではない。利用者がAppleの環境の中で行う仕事、閲覧、買い物、検索といった行動の種類そのものが増えていく。言い換えれば、Appleの「デジタル領土」が一段広がる。

iPhone Duo。Apple公式サイトより引用
Appleは「折りたたみ」では7年以上遅れている
スマホとタブレットの境界が薄くなる
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
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