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もし、残念な人が『論語』を読んだら【その1】

ここ数年、『論語』がブームだという。関連書籍の出版が続き、『論語』を読む会が各地で開催されている。景気回復に期待を抱くことすら飽きた今、清く正しくあろうと説く孔子の言葉にすがる人が増えるのは当然なのかも。団塊世代のおっさんに『論語』を振りかざして説教されるのだけは勘弁願いたいが、聞けば、「孔子は典型的な挫折者であり、彼の言葉は失敗した人間に響く」んだとか。  ということで、小誌ライター・尾崎亮(26歳)が『論語』に挑戦! はじめは難しさにとまどうが、”残念な自分”の心持ちを強くするのに『論語』が役立つことに気づきはじめ……となるのかどうか? 残念なライター・尾崎は『論語』と出会った
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 私は尾崎亮。現在、26歳。6年かけて昨春、大学を卒業。在学中からフリーライターのSに弟子入りし、ライター稼業は3年。自分で言うのも何ですが、結構、頑張っているという自負もある。  とはいえ、師匠のSからは、「うっかりミスが多い。一生懸命なだけにキツく叱れない!」と、どうすりゃいいのよ? という指導を受けることも。あげく、「もし、残念な人が論語を読んだら」という本企画にご指名いただく始末。  解せない気持ちを抱えながら、慶應義塾高校元教諭で、『論語』に関する著作を数多く出す佐久協先生の元へ。まずは、基礎知識から。 「『論語』は孔子が書いたものではなく、孔子の言葉を弟子が後年にまとめたもの。孔子は弟子一人ひとりの個性に合わせて語りかけているから、一般論ではないんだよ。矛盾する記述もあるんだけど、だからこそ、読む人それぞれの状況で響く言葉がある。こんなに長く読み続けられ、ブームにもなるのはそのためだろうね。加えて、孔子自身が典型的な挫折者だから、彼の言葉はダメな人間、失敗した人間に響くんだよ」  孔子が挫折者!? 確か、孔子が生きた紀元前500年頃の中国は統一王朝・周が崩壊しつつあり、諸侯が富国強兵に乗り出した時代。 「そんな下克上も当たり前という時代に、孔子は国を全盛期の周という国へ戻そうと道徳と教育を説いた。とはいえ、そんな乱世に孔子の話など誰も聞きやしない。50代で国政を担う大臣になるんだけど、それ止まり。結局、国を追われちゃうんだよ」  う~ん。一気に孔子に親近感。とはいえ、『論語』はオヤジの説教というイメージが強いのだが。 「例えば、孔子が『親がどうであれ孝行しろ』なんて言ったとされているけれど、本当は孔子は『親は親らしく、子供は子供らしく』と言ったんだよ。孔子の死後、支配層が彼の言葉を都合よく解釈してしまった。孔子の言葉はむしろ、若者の応援歌。あの時代、彼ほど『我』といった言葉を使っている人はいない。それは自分だけがいいという意味ではなく、一人ひとりが自分を見失わず、自分を見捨てず、教育や道徳を身につければ、国がよくなる。自分ひとりをよくすることは、世界をよくすることなんだと。私は孔子は人類最初の個人主義者だと思ってますよ」  なるほど。『論語』に書かれていることを完全に理解できたわけではないけれど、今の私にとって何かとても重要な、大事なことが書かれている、ような気がする。  私の今の悩みにも、『論語』はきっと答えてくれるに違いない! 教えてくれたのは【佐久 協先生
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慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語を教える。 ’04年退職。『高校生が感動した「論語」』(祥伝社新書)、 『世界一やさしい「論語」の授業』(ベスト新書)など著作多数
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