更新日:2013年03月28日 09:10
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野宿者と行政の攻防が続く「竪川河川敷公園」の今

公園敷地内へは現在、施錠された扉によって侵入禁止になっている

 JR亀戸駅から徒歩10分。首都高速七号小松川線の下を約2.5kmにわたって延びる竪川河川敷公園では、“今も”行政と野宿者との攻防が続いている。長年、この地にテント小屋を作って暮らしていた野宿者を、河川敷公園の再整備を進める江東区が立ち退かせようと動いているのだ。  もともと、竪川河川敷公園に野宿者たちが集まり出したのは、約20年前のこと。バブル崩壊を機に多数の職にあぶれた日雇い労働者たちが寝泊りをするようになり、最も多い時期には100軒を超えるテント小屋が軒を連ねていたという。そうして歴史を重ねていた同地だが、昨年、状況が急変する。’09年から河川敷公園の再整備計画を進めてきた江東区が、行政代執行によるテントなどの強制撤去に踏み切ったのだ。野宿者支援を行う山谷労働者福祉会館の向井健氏が話す。 「行政代執行は昨年の2月と12月に行われました。2月には公園内の野宿者の小屋1軒と住人の荷物が持っていかれ、12月には100人以上の警察官と工事関係者を動員して大規模に行われた。ただ、江東区による事前通知は公園敷地内からの撤去を求めるものだったので、野宿者たちは公園の敷地の外の、『副堤』と呼ばれる公園沿いの道路に小屋を移していたんです。つまり代執行時、公園内には撤去すべきものがない状態だったので、厳密には代執行は行われませんでした。ただその代わりに、江東区は公園と小屋のある『副堤』の間に、高さ約2mもの壁を設置したのです。そうして野宿者たちを“隔離”し、さらにライフラインである公園の水道も止め、電灯も一時期は消されていた。それ以来、野宿者たちは公園や道路からも遮断され、今は(最も狭い場所で)30cmほどの細い通路を使って出入りしないといけない状況になっている」  公園西側の五之橋付近、フェンスに囲まれるわずかな隙間が、野宿者たちにとって唯一の出入口になっている。土の上に板や布が敷かれただけの細い通路を奥へ進むと、「強制排除ヤメロ」などと書かれた旗とともに、10軒ほどの小屋群が現われた。住人のAさん(50代男性)に話を聞いた。 「今もここで暮らしているのは10人ちょい。俺は5、6年前から住んでいるし、そのずっと前からココにいる先輩だっている。みんな空き缶拾いとかでカネを稼いでるから外に出なくちゃいけないけど、高齢の人が多いから、道が狭いし歩きづらくて危ないんだ」 ⇒【写真】攻防が続く竪川河川敷公園
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=409774
◆区の工事が始まって以来、野宿者襲撃が頻発  彼らは行政の言うところの「不法占拠者」であるのかもしれないが、長年この場所で暮らしてきたというのも事実だ。周辺住民と大きないざこざがあったわけでもなく、「むしろ、普通に話をしたり、交流してきた」(Aさん)という。 「俺らが自転車のパンクを直してあげたこともあるし、逆に冬は『寒いでしょ』って、布団をもらったこともある。俺らも『迷惑をかけたらいられなくなる』と分かっているから、事件を起こしたりすることもなかった。けど、区が工事を始めてからは、その関係がおかしくなっちゃった。若い人から小屋に石を投げられたり、夜中に火をつけられたこともあった。危うく火事だよ。前はこんなことなかったのにさ……」  前出の向井氏もこう続ける。 「江東区が工事に着工して以来、竪川河川敷公園では野宿者襲撃が相次いだんです。しかも、毎晩のような異常なペースで。恐らく、行政が排除に動くことによって『野宿者=悪者』というイメージが、強くついてしまったのでしょう」  江東区もただ強制退去させるのではなく、生活保護を受けながらアパートへの転居を薦めるなど、移住後の案を出してはいる。だが、その案を簡単にのむのも難しいという。 「一般の人からすれば、『アパートに入れるなら出ていったほうがいいじゃないか』と思うでしょうが、そう簡単な話ではないのです。6畳間に二段ベッドが2つ置かれたすし詰め状態のように、まったくプライベートのない部屋の場合もあるし、仮にそこが嫌になっても、もうこの場所には戻れない。実際には、ここに住む人は『いい場所に住みたいのではなく、ココに住んでいたい』という人のほうが多い」  先ほどのA氏も「(生活)保護を受けるよりも空き缶拾いで食いぶちを稼いでいたい」と話す。

行政によって立ち退きがすんだエリアでは整備が進む。フットサルコートやテニス場なども作られている

「ここに住んでる皆は家族のようなもの。俺だけ役所のやっかいになろうとは思わない。それに、役所はココに住んでいる人だけに条件を提示している。なんで俺たちだけ特別扱いするのかといえば、ここから追い出したいからでしょ? 江東区に住んでいる野宿者全員に同じ条件を出さないと、フェアじゃないと思う」  根強い行政への不信感も、問題が解決しない根底にあるようだ。  地元住民も様々な意見を話した。ある30代の主婦は「彼らがいることで景観が悪くなっているのは事実。早くいなくなってほしい」と話し、一方で周辺の雑貨店主(50代男性)は「大人しい人たちなので無理やりどかせるのは可哀そうだと思う。特に事件が起きたこともないし……なんとか上手いやり方はないのかな」と、複雑な心境を明かした。また、小屋がカベで隔離されているせいか、「もういなくなったと思ってた」(40代女性)という声もあった。 「江東区の再整備計画は4カ年計画で、’13年は最終年。今年中に3回目の代執行は行われるのではないかと危惧しています」(向井氏)  現在、向井氏ら支援団体と役所との交渉はとん挫したまま。野宿者たちの静かな戦いは続いている。 <取材・文・撮影/日刊SPA!取材班>
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