工場閉鎖で100億円!リストラにはカネがかかる理由
一言で「リストラ」といっても、中身はさまざま。一番連想されるのは人員削減だが、ほかにも不要資産の売却、生産拠点や販売拠点の閉鎖、子会社の売却や精算などもリストラには含まれる。そして、これらすべてに共通するのは、財務余力(利益水準や現金の余裕)が必要だということ。投資会社や経営コンサルティング会社などで企業再生、企業変革に取り組んできた経営コンサルタントの中沢光昭氏は、「本当に状態が悪い企業には、リストラなんてできない」と前提したうえで、その理由を次のように説明する。
「保養所や社宅を売却する場合、資産の評価額に満たない金額で売ってしまうと、その差額が『特別損失』になります。例えば、過去に100億円で買った土地を70億円で売ったら、30億円の特別損失を計上しなければなりません。その際に利益が30億円以上なければ『赤字』となってしまいます。上場していれば株価に大きく影響してしまいますし、非上場であっても社員、取引先、銀行などとの信頼関係に影響しかねません」
もちろん特別損失は何も土地に限った話ではない。
「使わなくなって倉庫の奥に眠っている資材を捨てれば、捨てたモノの価格に相当する分だけ特別損失が発生したりします。賃貸している拠点を撤退する場合には、現状復帰の費用がかかります。所有している土地を売却する際に土壌汚染の可能性があった場合には、適宜調査したり除染したりするための費用がかかります。不要になった設備を売却するにも、そのままの姿で売れることはあまりなく、結局スクラップにした場合には、解体費用や産業廃棄物処理の費用が発生してしまいます。業績不振の子会社を精算する場合に、融資が返ってこなければ貸し倒れの会計処理をしなければなりません」
会計処理だけならカネは出ていかないだけマシだが、カネが必要な場合には、業績不振に陥っている会社にとっては相当な負担になる。
「国内の製造業大手が、地方にある生産拠点をまるごと閉鎖するといった話題が、時折ニュースになります。『大変だなあ。でも、稼働していない工場をつぶして土地を処分すれば、資金流出は防げるかもね』などと考えてしまいがちですが、それは大きな誤解です。工場を閉鎖するのはたいへんな作業で、工場閉鎖のために巨額の資金が必要となります。そのため、必要がなくなった工場を処分することができないメーカーがたくさんあります」
500人規模の国内の工場を閉鎖するとなると、その費用は100億円を超えることも珍しくないとのこと。
「500人に支払う上積みの退職金が一人1000万円だとして、合計50億円の現金が必要です。500人規模の広い工場用地を売却するには、まず土壌汚染の有無など原状復帰が必要かどうかの調査をし、必要に応じて処理をしなければなりません。土壌汚染が見つかってしまった場合には、すっかりきれいにしてからでないと売却できないため、5億円、10億円という単位でお金が出ていきます。また、工場の設備や機械や在庫などの売却・処分にも数億円単位で現金や会計上の処理がかかるでしょう。ざっと計算しても、500人の工場をつぶすのに100億円ぐらいのお金がかかってしまうのです。どの企業も、台所事情が厳しいときにはリストラに踏み切れないのがよくわかります」
円安・株価上昇によって得た現金は、社員への還元ではなく「リストラ費用」となってもおかしくはないということは忘れてはいけない。 <文/日刊SPA!取材班>
【中沢光昭氏】
経営コンサルタント。投資会社、経営コンサルティング会社などにおいて企業再生、成長を見据えた企業変革に約20年従事したあと、独立。現在も企業再生をメインに活動を行う。これまでに30社以上、計2000人以上のリストラに直接関わってきた。著書『好景気だからあなたはクビになる!』が好評発売中
『好景気だからあなたはクビになる!』 クビ切り指南役が語る未曾有の大解雇時代をしぶとく生き延びるための処方箋 |
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