奇才・天久聖一がテレビ番組を妄想ノベライズ「お気に入りは『志村、うしろ!』」
週刊SPA!の名物連載「バカサイ(バカはサイレンで泣く)」でもおなじみの漫画家・天久聖一氏。電気グルーヴのPV制作やシティボーイズの舞台の作・演出などマルチに活躍する奇才が、今度は小説にも進出した。パンクな文芸長編『少し不思議。』(文藝春秋)に続き、短編集『ノベライズ・テレビジョン』(河出書房新社)を上梓。誰もが一度は見たことのあるテレビ番組やCMを勝手にノベライズした作品集だ。
といっても、単純にドラマを小説に置き換えたようなものじゃない。
「以前からノベライズという手法には興味を持っていました。たとえばカメラを向ける対象が人物だけに限らないように、ノベライズという手法もあらゆる対象を扱えるんじゃないかと。題材は、なるべく長寿番組や世間的に定番となっているものを選びました。やはり様式がちゃんとあるもののほうがいじり甲斐ありますね」と天久氏は語る。
実際、同書で取り上げられているのは、「笑っていいとも!」「開運! なんでも鑑定団」「徹子の部屋」「新婚さんいらっしゃい!」「笑点」といった長寿人気番組や「アリさんマークの引越社」「ホワイト家族」「ドモホルンリンクル」などの有名CMだ。それらを、あるときは出演者目線で、またあるときはSF(少し不思議)的な設定で、自由に妄想をふくらませて“ノベライズ”している。
たとえば、「開運! なんでも鑑定団」では老舗温泉宿の女将と古美術鑑定家との因縁が描かれ、「アリさんマークの引越社」では赤井英和がある朝目覚めると自分の体が巨大化していることに気づく。「新婚さんいらっしゃい!」ではあの司会コンビがルパン三世と峰不二子ばりの活躍を見せ、「笑点」ではメンバーそれぞれの視点で人生の機微をあぶり出す。細かく仕込んだギャグで笑わせながら、ときに人情味あふれるドラマでホロリとさせる全32編の作品集は、まさに「笑いと涙の宝石箱や~」という感じ。
「元ネタには敬意を払うこと、あと読後感を悪くしないことを心がけました」と天久氏が言うとおり、どの作品も対象をおちょくりつつも愛がある。
そんな天久氏自身が一番気に入ってる作品は<「志村、うしろ!」をノベライズする>だとか。
「これを書いたとき、このノベライズシリーズがいわゆる“ネタもの”から次のステージに上がった手応えを感じました」
では、一番苦労した作品は?
「<「笑点」をノベライズする(木久扇編)>です。笑点モノは全部一人称しばりで書いたんですが、木久扇師匠の内面をどうキャラづけするかで結構悩みました」
もちろん実在の人物や番組とは一切関係ないが、あの志村や木久扇師匠がどのように描かれているか、ぜひ本編で確認してみてほしい。
12月15日(日)には、同書の刊行を記念して、パルコブックセンター吉祥寺店にてサイン会(http://www.libro.jp/news/archive/003819.php)も開催される。続編や他ジャンルのノベライズも「オファーさえあれば何でもやります!」と、やる気満々の天久氏。今、最も目が離せないクリエイターの一人である。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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