黒木渚ロングインタビュー「将来は大学教授になろうと思っていた」【後編】

黒木渚

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 前回の神田神保町の古書店巡りでも十分に黒木渚さんの活字中毒ぶりが伝わったと思うが、彼女の本に対する情熱はまだまだこんなものではない!! 大学での研究内容から、最新アルバム『標本箱』についてまで、インタビュー形式でたっぷりと語ってもらった。

⇒インタビューの【前編】はコチラ

――さて、今回、ソロになって初のアルバム『標本箱』には読書の影響を受けた作品などありますか?

黒木:「あしながおじさん」という曲は小説の『あしながおじさん』のイメージをもちろん受け継いでいるし、あと「金魚姫」という曲はちょっと俳句っぽくしたかったんですよ。俳句と文部省唱歌っていうテーマを設けてメロディづくりをしたんで。

――え!? 文部省唱歌? 「金魚姫」ってすごくテンポのいいロックチューンじゃないですか。

黒木:楽曲はそうなんですけど、メロディで文部省唱歌をイメージしたんですよね。歌詞には俳句的な世界観というか……「あなたすくってくれないか」という歌詞にはダブルミーニングがあったり、「袖を濡らして」といった歌詞には俳句的な世界観というか、俵万智さんとかも好きだから、そこから吸収したものが反映されていると思います。あと、美しい女性的な日本語だったら江國香織さんの文章がすごいきれいだと思っていて。そういうどこかで吸収したものは出ていると思います、「金魚姫」には。

――どの楽曲も黒木さんらしくフィクション性が高いけど、文学性をかなり意識して書いたのは「金魚姫」だと。あと、今回のアルバムのコンセプトは「11人の女」ということですが、ぜんぶ黒木さんの中にあるものが11分割されて表現されているのかな、と思ったりしているんですけど。

黒木:そうだと思いますね。自分の中に11面あったことも驚きだし、けっこうこれを人に見せちゃうと、「大丈夫か?」みたいなのもけっこうあるじゃないですか。

――ありますね。特に『ウェット』(笑)。(歌出しの歌詞が「二ヶ月前 手首を切りました/直前に彼氏を刺しました」という強烈に印象的な曲。主人公は自殺したが成仏できない幽霊である)

黒木: (笑)。私は狂気をたたえた人間です、って言っているようなもんだけど、音楽家としては全然見せたって恥ずかしくないかなって。なんだろう。私は日々の生活をずるむけで切り売りしているわけではないし、それを一旦、作品にして出すっていうことは、喜びでももちろんあるし。その、やっぱり、一口で「私はどういう人です」みたいなことは言えないわけで。11面で多面的にそれを示して、立体像として黒木渚を出すっていうのが、ちょうどソロになったタイミングだし、一番ベストかな、って気がしました。

――ただ、『ウェット』に関しては弁解しておいたほうがいいんじゃないですか?(笑) 私の実体験から作った曲じゃありませんよ、って。

黒木:これは10代のときにつくった曲ですけど、やっぱり、1、2回しか聴いたことのない人には「死ぬ歌でしょ、あれ!」って言われるんですけど、何回も聴いてくれた人は「生きる歌ね」って言うんですよ。だったら、これはアルバムに入れなくちゃと思って。あと、私がちゃんとエッジなものを愛している気持ちを隠さないためにも『ウェット』はアルバムに入れるべきだと思ったんです。だって、『窓』(恋する女性の心情を歌ったラブソング)と『ウェット』を作った人は同一人物ですからね(笑)。なんだけど、その振れ幅もあるし、隠しませんよ、っていうことを主張したかったんです。

――そういう意図があったんですね。

黒木:それに、『ウェット』という曲は本当に「生きる歌」として書いていて、一瞬でも「死ぬことが甘美だ」と思ったことがある人間にとっては、これは聴くべき歌じゃないかな、と思っていて。死が解放だと思ってそっちに逃げようとするけど、もしかして、死というものが、死んだ瞬間に永遠に止まり続けるとしたら、その悲しみからは絶対に解放されないんですよね。だから、どんなに不条理なことが起きても、生き抜いて、人生に対して逆転勝利の瞬間を待つしかない、っていう。どん底に落ちたときのあたしの教訓で、あたしが思ったことがもとになってできていて、それをあえて、死んでしまって後悔している人が生きている人間に忠告するっていう形にして。Aメロとかすごい強烈だけど、ホント、泥沼不倫みたいな。けど、ホントによくある話じゃないですか。わたしの話じゃないけれど。

――いや、そう聞きたくなりますよ。黒木さん、昔そういう経験をしたのかなって笑)。

黒木:そう。でも、手首を切ってもないし、不倫もしてないし、彼氏を刺してもいないけど、それをやっている人は本当に当たり前にいるっていう。その中を生き抜いていかないといけないですよ、という。でも、10代でつくった曲だから、Aメロにあれを持ってきちゃったんですよね。すごい尖った部分を。だから、「手首を切る歌だ」みたいな感じでやっぱり、誤解されやすいけど、アルバムに入れて何回も聞いてもらうとか、ライブの前に語りをつけたりとか、そういう工夫をすれば、ちゃんと真意が伝わるんですよね。言葉は信用できないかもしないけど(笑)。

――でも、黒木さんらしさが全開で出ているいいアルバムだと思います、本当に。

黒木:ソロ一発目ですしね。やれることはやり尽くしました。これが評価されなかったら福岡に帰ろうかっていうぐらい(笑)。

<取材・文/織田曜一郎(本誌) 撮影/難波雄史(本誌)>

標本箱

11人の女性が登場する「女」をテーマにしたコンセプトアルバム




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