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黒木渚ロングインタビュー「将来は大学教授になろうと思っていた」

 前回の神田神保町の古書店巡りでも十分に黒木渚さんの活字中毒ぶりが伝わったと思うが、彼女の本に対する情熱はまだまだこんなものではない!! 大学での研究内容から、最新アルバム『標本箱』についてまで、インタビュー形式でたっぷりと語ってもらった。 ⇒【前回】『才女の文学系ミュージシャン・黒木渚と神田神保町を行く』
https://nikkan-spa.jp/623780
――お疲れ様でした! さて、改めて本が好きになった理由を教えてもらえますか?
黒木渚

ソロになった黒木渚は金髪でイメージを一新!

黒木:中学生ぐらいまでは本当に興味のあるものしか読まないっていう感じで、その時期はミイラが好きで、ミイラの本ばかり読んでいたんですね。で、高校生になって、寮生活で娯楽もないし、文字が好きっていうのにうすうす気付きはじめて……。図書館の本って寄贈で成り立っている部分があるじゃないですか。その中にたまに、「うそーん」っていうような本が入っているときがあって。例えば、すごいグロテスクな本であるとか、これ学生に読ませていいんだろうか、みたいなのがたまーに紛れ込んでいるんですよ。そういう統制された世界の中に珍しいものがあるとめちゃくちゃワクワクするじゃないですか? なので、江戸川乱歩が好きだとか、ちょっと変わったものが好きだとか、悪趣味なことをちょっといいなと思ってしまうことがあるのは、そこで培われた気がしますね。 ――黒木さんはこの頃から日記を毎日書いているそうですが、小説を書いたりはしませんでした? 黒木:恥ずかしくて今はもう手元にないでけど(笑)、なんか黒歴史みたいな小説を書いたりしていましたね。事実を元にして、それから派生した物語をつくっているんで、今の私の曲作りと似たところがあるんですけど。 ――どんな内容でしたか? 黒木:高校1年生か2年生のときに、すごく小さい頃から仲良くしてもらっていた隣の家のおばちゃんがガンで亡くなったんですよね。高校生のタイミングで。その夫婦はすごく仲の良いおしどり夫婦だったんですけど、おばちゃんのガンが進行していって苦しむ様子をおじちゃんは見ていて、毎日、心が張り裂けそうなわけですよ。で、最後の最後、臨終のときに、おばちゃんが痛みでもがき苦しんでいるときに、おじちゃんが「もういい、死ね」って言ったらしいんですよ。おばちゃんに対して。その「死ね」っていう言葉は、世界でいちばん優しい「死ね」だと思ったんですね。その話を聞いたときに、「小説にしよう!」ってそれを思って。「本当の愛って何だろう」という、中高生が思春期に思うようなテーマだったけれど、その出来事をきっかけに執筆しました。事実をそのままに書いたのではなくて、自分たちの年代に置き換えた小説を書いたんですよね。 ――書き上げたものは人に見せましたか? 黒木:こっそり親友には読ませました。ちょうどそのとき『セカチュー』(『世界の中心で、愛をさけぶ』)が流行っていた時期で、親友は「『セカチュー』よりリアルだね」って言っていました。そうだね、事実からつくっているからね、みたいな。言葉遣いとかは今よりもだいぶ稚拙だったとは思うけど、一個、作品を自分の中で発想して、それを完璧に作り上げたい、というのはやっぱそのときからあったんだろうな、というのはありますよね。 ――その後、大学の英語教育学部で3、4年生のときにポストモダン文学を研究しはじめたそうですが、何を研究していたかを、簡単に教えてもらっていいですか? 黒木:大学のときはイギリス人の作家のジュリアン・バーンズ(1946年~)の『フロベールの鸚鵡』という本を研究したんです。フロベールはフランス人の作家で、その人が所有していたと言われるオウムの剥製を探し求めて行く、というのがおおまかなあらすじなんですけど、結局、その本を一冊通して読んでも、まったく意味がわかんないんです。なんにも伝わってこない(笑)。なんだこの本、って思ったのがまずきっかけで。 ――どういう内容なんですか? 黒木:なんか章ごとにつくりがめちゃくちゃなんですよね。一章は物語が始まりそうな、割とまともな章だったりする。で、第二章になるといきなり年表が出てきて、そのフロベールの年表が二つ出てくるんですよ。で、ひとつはフロベールの人生の中でネガティブな出来事ばかりを、もうひとつはハッピーなことだけピックアップしてあるんですよ。そうすると、フロベールのことを書いているのに、結局この人がネガティブな人なのか、ポジティブな人なのかわからない。で、読み進んでいくと、フロベールを動物に喩える章とかも出てきて。ネズミに喩えたり、ラクダに喩えたり、いろいろな動物に喩まくるんですけど、結局、喩えすぎててフロベールがどんな人物かまったく見えてこないんですね(笑)。 ――へえー! 黒木:言葉が氾濫しすぎていて、何も核心がつけないという、まさかの現象が起きるんだな、っていうことに気づいて。それって、言葉とか歴史とかすごく信用して生活しているのに、「一回、そこを疑えよ」って言われている気がしたんですよ。もちろん、情報についても「一旦、丸呑みせずに考えろよ」って言われているような気がして。それをきっかけで、考え始めたんですよね、言語と私たち、みたいなことを。 ――言語と言えば、この3月にチョムスキー(1928年~。言語学者)が日本に来ていましたね。 黒木:すごいですよね、あの人。私は、本当にチョムスキーはわからなかった。チョムスキーの弟子にあたる方が言語学の授業の教授だったんですが、その先生はチョムスキーを崇拝していて、「チョムスキーは赤いものを指さして『白だ』って言ったら、それは白なんだよ」って言い出して。で、みんな「はあ?」ってなるじゃないですか。「チョムスキーは白のものを赤だと説明して他人を納得させることができるぐらい頭がいい」っていう話になって、「あ、そんなヘンな人なのね」って思ってて(笑)。その先生の授業は毎回リポートを書かなくちゃいけなくて、わけがわかっていなさすぎて、毎回、提出する授業最後のリポートにわたし、なぜかローリング・ストーンズのあの口と舌のマークをでっかく書いて提出していたらしいんですよ(笑)。私は忘れていて、卒業したあとで言われたんですけど(笑)。 ――ロッカーっぽいですね(笑)。 黒木:で、下に小っちゃく「Mother tongue」って書いてあったらしいんですけど。先生からは「君は強烈に印象に残っている生徒だわ」と卒業してから言われました。別にストーンズが好きだったわけじゃなくて、多分、「母語」についての授業のときに、「Mother tongue」って舌だから、ってそれだけだと思います(笑)。 ――ははは。話を戻すと、私はポストモダン文学について門外漢なんですが、勉強してみてどうでしたか? 黒木:ポストモダン文学は「崩壊の文学」と言われていて……やっぱり、「言語を信用しない」なんてことをまず論文で書いている段階で、言語を使っているから、おかしな話なんですけど。そもそも、元も子もないじゃないですか、言葉を信用しないなんて。確かに、言葉の上にサムシングが乗っかっているのを感じる瞬間があるから、「もしかしたらポストモダニズムってもっと先があるんじゃないか」っていう予感が大学生のときにあったんですよね。いろんな人が書いている論文には「崩壊だ」「すべての常識がひっくり返るぞ」「言葉が成立しなくなっちゃう世界が訪れる」っていうところで終わっちゃったけど、成立しないなら成立しないなりに……なんだろな、あきらめきれなかったんですよ、言語を信用しないなんて、という。どうにかすれば、信用できるものに変えられるんじゃないか、みたいなところはやっぱりあきらめきれなった……だって、実際に本を読んで感動することがあるわけだし。そして、あきらめきれないから大学院へ続く、みたいなことになっちゃうんですよ(笑)。 ――大学院にまで行ったということは、文学研究者になろうとは思わなかったんですか? 黒木:教授になろうと思っていました。だって、「研究費で好きな本を買えるんだもん」って思って(笑)。でも、英米文学を専攻している身として、海外に留学していないということはかなり大きなマイナスだったんですね。で、「留学に行ったほうがいいよ」って言われて、「何年ぐらいですかね?」って聞いたら「8年」て言われたんですよ。 ――その頃はもう音楽活動も本格的に始めていましたものね。8年は長いなぁ。 黒木:そうなんです。「8年も行く経済力はウチにはありません!」って言って(笑)、そこまではずっと教授になるとばっかり思っていたから、「私、就活していなかった。ヤバイ」と思って。アマゾンでとにかく「公務員」ってタイトルに入っている本を30冊ぐらい買って、で、その1か月後に公務員試験を受けました。 ――え、市役所に勤めていたのは知っていましたが、1か月の勉強で受かったんですか? 黒木:なんとか受かりました。 ――さすが、本を読んでいると頭が良くなるんですね。 黒木:いえいえ、ヤバかったです。 ⇒【後編】に続く https://nikkan-spa.jp/623810 <取材・文/織田曜一郎(本誌) 撮影/難波雄史(本誌)>
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11人の女性が登場する「女」をテーマにしたコンセプトアルバム

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