【第24回世界コンピュータ将棋選手権レポート3】電王戦ソフト「ponanza」まさかの敗北。その敗因は…

←【その2】はコチラ http://nikkan-spa.jp/645102

◆5月5日/決勝

 決勝はそれぞれ全7戦の総当りとなるリーグ戦。例年強豪ソフトたちが星を食い合って混戦模様になることが多いのだが、今年は5回戦まで全勝と、Ponanzaが圧倒的なパフォーマンスを見せていた。過去の対戦成績がかなり悪く苦手としていたNineDayFeverにも勝利し、優勝は盤石かと思われた。

 コンピュータ将棋ソフトは、ソフト同士のオンライン対戦場である「floodgate」で連日のようにテスト対局を行っており、その膨大な過去のデータから開発者たちの間での下馬評が形成されるのだが、ここまではおおよそ、その見立て通りと言える展開だった。

NineDayFever

NineDayFever開発者・金澤裕治氏

 一部例外といえるのは、優勝候補と目されたNineDayFeverがBonanzaに対して二次予選も含めて2敗したことだろうか。NineDayFeverは過去のBonanzaのプログラムをベースに開発されているため、もしかすると親ソフトに対して相性が悪い、もしくはベースが同じなのでマシンパワーの差が勝敗に出やすいのかもしれない(※)。

※Bonanzaは8000万NPSほど。この選手権では大合神クジラちゃんを除いて最大のマシンパワーとなる。

 ところが6回戦、PonanzaはAperyを相手に初黒星を喫してしまう。これでPonanzaは5勝1敗、NineDayFeverとAperyが4勝2敗。優勝の行方はこの3ソフトにしぼられた。Ponanzaは最終戦を勝てば自力優勝。しかし、相手は二次予選で奇跡の生還を果たした、あのYSSである。

 実は、昨年の選手権では最終戦でYSSが習甦に勝ったために、ポイント差でBonanzaが逆転優勝し、間接的にPonanzaの優勝を阻止したという経緯がある。PonanzaにとってYSSは大きな因縁のある相手なのだ。そして。本当にまた、何かが起こってしまったのである。

 YSS×Ponanzaの対局では、途中まで両方のソフトがどちらも自分のほうが優勢であるという評価を出していた。もちろん、どちらかが間違っているはずだ。しかし、いったいどちらが。開発者たちは皆、固唾を呑んで見守る。そして80手目付近を境に、突然Ponanzaの評価値が反転した。

 その瞬間、愕然としてうなだれるPonanza開発者の山本一成氏。YSS開発者・山下宏氏は、おもむろに自分のブースから一眼レフを持って、決定的な瞬間を撮影するべくPonanzaのブースに駆け寄る。この様子を見た開発者たちからは、歓声と爆笑がわき起こった。YSSが勝ったのだ。

 NineDayFeverは激指に敗れて4勝3敗で脱落。AperyはN4Sに勝って5勝2敗。勝ち星はPonanzaと並ぶ。すると、あとは勝った相手の勝ち星の数が問題となる。この瞬間、優勝はAperyに決まった。

 Aperyは平岡拓也氏を筆頭に3年半ほど前から開発が始まった比較的新しいソフトで、過去の電王戦には登場していないので知名度は低いかもしれない。しかし、実はあと一歩で電王戦に出場できたところだったこともあり(第1回将棋電王トーナメント6位)、先述したfloodgateでも上位のソフトだ。番狂わせではない、実力通りの立派な優勝である。

 昨年に続いて、最後に大逆転のドラマで幕を閉じた世界コンピュータ将棋選手権。コンピュータ将棋は毎年どんどん進歩しており、強豪ソフトの実力はどれも紙一重。また選手権は、ある意味でわが子の将棋大会をただひたすら見守る、開発者たちの全力を尽くした楽しいお祭りである。そして、わが子の指し手の意味を完全に人間的に理解できる開発者は、ほとんど誰もいない。つまり人智を超えた不思議な競争でもある。

 次の電王戦の予定は、まだ何も発表されていない。おそらくプロ棋士でも、これらの強豪ソフトに勝つのは容易ではないだろう。しかしそれでもプロ棋士たちが、またこのソフトたちと戦うところが見たい。コンピュータの指す将棋を最もよく理解できる人間は、やはりプロ棋士しかいないのだから。

●世界コンピュータ将棋選手権
http://www.computer-shogi.org/wcsc/

<取材・文・撮影/坂本寛>

ハッシュタグ




おすすめ記事