【第24回世界コンピュータ将棋選手権レポート】対局前から激戦! 開発者は当日朝まで徹夜で突貫工事
ゴールデンウィークまっただ中の5月3日、『第24回 世界コンピュータ将棋選手権』が千葉県・かずさアークにて開催された。コンピュータ将棋協会が主催し、年に一度、毎年この時期に強豪ソフトが集まって世界一を決める由緒正しい大会だ。
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先日の『第3回 将棋電王戦』ではコンピュータがプロ棋士を4勝1敗と圧倒したのも記憶に新しいが、今回の選手権にも、その電王戦で活躍した将棋ソフトたちが多数登場。しかし、貫禄を見せるかと思いきや、大小さまざまな波乱含みの展開となった。昨年に続いて今年も、一次予選から決勝までの顛末をレポートする。
◆5月3日/一次予選
選手権は例年通り5月3日から5月5日までの計3日間。初出場組が中心となる初日の一次予選で、ひときわ注目を集めていたのが、昨年の選手権で独創賞を獲得した「大合神(だいごうしん)クジラちゃん」だ。番組視聴者のPCと専用ソフトで接続し、CPUの一部を将棋の指し手の計算に利用するという、『ドラゴンボール』の「元気玉」のような独創的なシステムを実現したソフトである。
クジラちゃんは、そもそも昨年の時点で実力はすでに二次予選進出レベルであった。しかし通信トラブルやバグで星を落とし、一次予選を突破できなかったという経緯がある。今年はソフトの知名度も増し、視聴者数の増加(すなわち全体のマシンパワーが上がる)が期待できるので、突破はまず間違いないと思われたのだが……。
「昨年は『Perl』というプログラム言語で作っていたんですが、今年は『C++』という言語で全部書き直したんです。もっとカッチリしたソフトになるので」(大合神クジラちゃん開発者・えびふらい氏)
えびふらい氏は選手権前日の設営日から準備の様子をニコ生で生放送していたのだが、この新しく書き直したプログラムにエラーが頻発して一向に完成せず、結局は当日の朝まで徹夜で視聴者と一緒にバグ潰し放送を展開していた。記者もこの放送の様子を深夜まで視聴していたのだが、出場できず不戦敗もあるかと思われるほどのデスマーチぶりだった。
一方Twitterを見ると、ほかの開発者たちもほとんど寝ないで作業している様子が散見された。あの強いコンピュータ将棋ソフトたちは、このようにして作られているのだなと、なんとなく文化祭の前日のような気分を、自宅に居ながらにして味わうことになった。そう、この選手権は開発者たちの年に一度のお祭りなのだ。
さてトラブル連発だった大合神クジラちゃんは、当日の朝6時ごろ奇跡的にプログラムが完成。すぐに視聴者PCと簡単な接続テストを行い、会場のかずさアークへ。テスト対局もほとんどナシのぶっつけ本番である。
しかし、まともに動かずエラーで止まっても仕方ないと思っていた記者の予想に反して、クジラちゃんはトントン拍子で勝ち進んでいく。接続しているPCの台数は100台を超え、NPS(1秒間に読める局面の数)も1億オーバー。これは全参加者中最高のマシンパワーで、『第2回 将棋電王戦』で大将を務めたときの「GPS将棋」の約半分という圧倒的な数字である(ほかの参加ソフトは数百万NPS程度)。
気がつけばクジラちゃんは6戦全勝で単独トップ。一次予選突破をあっさり決めて、最終7回戦は「なのは」との対局に。某アニメキャラから名前をいただいていることから一部で人気のソフトである。ちなみにこの7回戦は、なのは側から見ると勝てば一次予選突破が決まるという大一番。するとニコ生の視聴者たちの間でクジラちゃんとの接続を切断しようというコメントが多数流れる事態に。
実際にその動きがどの程度影響したかは定かではないが、7回戦は、なのはが完勝して二次予選進出を決める。これで一次予選突破ソフトは「Warsenal Zero」「大合神クジラちゃん」「GA将!!!!!!!」「きのあ将棋」「なのは」「さわにゃん」「まったりゆうちゃん」「芝浦将棋Jr.」の計8チームとなった。
⇒【その2】『初戦から大波乱。勝敗を分けるのはマシン性能の違いだけじゃなかった!』に続く https://nikkan-spa.jp/645102
●昨年の大会レポート
「第23回 世界コンピュータ将棋選手権」観戦記 真の最強は?
https://nikkan-spa.jp/438662
●直前の電王戦
第3回将棋電王戦全5局を総括。「1勝4敗」の意味するものとは?
https://nikkan-spa.jp/626805
●世界コンピュータ将棋選手権
http://www.computer-shogi.org/wcsc/
<取材・文・撮影/坂本寛>
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