売れない芸人の過酷なバイト事情――ソラシド本坊のノンフィクション肉体労働エピソード
―[プロレタリア芸人]―
過酷な肉体労働バイトのネタが話題となり、「芸人報道」(日本テレビ系列)などでも特集が組まれた吉本芸人・本坊元児が、初の自伝的小説『プロレタリア芸人』を刊行する。麒麟、アジアンなど売れていく同期への羨望と焦り――。 勝負を賭けて上京するも、芸人としての仕事がほぼゼロ。泥や汗、埃やアスベストにまみれながら、壮絶な肉体労働現場で働く彼の日常は、まさに「現代の蟹工船」。そんなリアルでディープな内容から、一部抜粋してお届け!
◆「ジャンパー」
ある冬の日。
僕は工事現場で外構工事をしていました。外構工事とは穴掘りのことです。設備会社の人が配管を設置する為の穴を掘るのです。穴掘りには、剣スコという先の尖(とが)ったスコップを使います。一方、先の四角いものを角スコといいます。下水が流れるように勾配をつけてどんどん深く掘り進みます。塹壕(ざんごう)を掘るような感じ。
関東ローム層はとても硬い。剣スコの肩を思い切り踏みつけて掘り下げていきます。足裏の土踏まずは腫れあがり、偏平足になってしまいます。僕の土踏まずは土踏みますです。
そんな僕にとって、重機はヒーローに映ります。ユンボがトラックに積まれて到着しました。しかしユンボは動く気配がありません。監督に、「どうしてユンボを使わないんですか?」と尋ねると、「今日はユンボの免許を持っている人がいないんだよ」
と返答されました。子供の使いじゃないんだぜ。ユンボを見たばっかりに失望が大きく感じられました。
その日はとても寒かったのですが、人力で穴掘りをしているとぽたぽたと汗が落ちてきます。少し暑いなと感じた僕は、上に羽織っていたジャンパーを脱いで目の前にある木に引っかけました。
すると、そこに現場監督が通りかかりました。監督は僕の目の前で足を止め、何サボッてんだと言わんばかりに僕を監視し始めました。
僕はすぐに作業に戻り、一心不乱に地面を見つめ、ひたすら穴を掘り続けました。
監督はまだ監視をしています。地面を見つめる僕の視界の際に佇(たたず)む監督の気配が煩(わずらわ)しい。
監督がすぐそばにいるのでひと息つくこともできず、ただ機械のように穴を掘り続けました。
監督は三十分はその場に居続けたように思います。もうそろそろお昼ご飯の時間のはず。ちょっとジャンパーを脱いだだけなのに、勝手にサボっていると決めつけて見張っている。この仕打ちは非道い。
かといって、このままお昼ご飯を食べないわけにはいかない。よし、お昼休憩をもらおう。意を決して顔を上げると、そこにはジャンパーしかありませんでした。
「ジャンパーかい!」
僕は視界の隅にいた自分でかけたジャンパーを監督だと勘違いして、お昼の休憩時間まで穴掘りをしていたのでした。自分に腹が立ちます。
それにしても、どうして僕はこんなところにいるのだろう。
撮影/山田耕司(扶桑社)
『プロレタリア芸人』 肉体労働現場のリアルでディープなエピソードを詰め込んだ珠玉の一冊 |
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