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山ダムの現場はひとりで行くと行方不明になる!?――ソラシド本坊のノンフィクション肉体労働エピソード

過酷な肉体労働バイトのネタが話題となり、「芸人報道」(日本テレビ系列)などでも特集が組まれた吉本芸人・本坊元児が、初の自伝的小説『プロレタリア芸人』を刊行する。麒麟、アジアンなど売れていく同期への羨望と焦り――。 勝負を賭けて上京するも、芸人としての仕事がほぼゼロ。泥や汗、埃やアスベストにまみれながら、壮絶な肉体労働現場で働く彼の日常は、まさに「現代の蟹工船」。そんなリアルでディープな内容から、一部抜粋してお届け!

◆洋和ワークスの本坊と申します

本坊元児 ああ、嫌だなあ、と思うのが解体工事です。解体工がどんどん天井を崩していき、その残骸を拾い集めるのです。頭上注意。空爆かというくらいモノが落ちてきます。

 石膏ボードの粉塵や断熱材が宙を舞います。断熱材にはガラスの粒子があり、これが体に突き刺さり、痒(かゆ)くて痒くて発狂しそうになります。

 このガラスを除くには、熱い風呂に浸かり毛穴が開くのを待つのが一番です。あるおばさんの先輩は、顔面に養生テープを貼り、毛穴パックのようにしてチクチクを取り除いていました。女性らしいなと思いました。

 解体のときはみんな、強盗のような格好で、できるだけ全身を覆い隠します。解体の翌日には目から涙と石膏が出てきます。自分の体が心配です。

 ほかに、電気会社さんの仕事で幹線引きというものがあります。これはマンホールに電線を通す為、予め配管に通してある針金に電線をくくりつけ、「ソーレ! ソーレ!」と引き続ける仕事です。重い。勝つには長すぎる綱引き。どこかの国の軽い刑罰。

 嫌なものはまだまだあります。凍るような真冬にマンホールの中へ入り、高圧洗浄機で中を洗うというのもありました。

 これは誰が喜ぶねん。考えることは無意味です。僕は言われたことをするほかないのです。

 天保山(てんぽうざん)くらいの土の山を目の前にして、スコップ一本渡されて、「この山、1メートルずらしてくれ」と言われたこともありました。なんでや。

「動線を確保したいんだ」

 だからなんでや。なんで動線のど真ん中に土を下ろしたんや。しかし僕はただ、言われた通りにするほかありません。

 比較的に楽な作業に相番(あいばん)というものがあります。コンクリートを打設する際に、大きなバイブレーターで震わせてコンクリートを流し込んでいきますが、そのバイブの電源のオン・オフとケーブル捌きをします。そして、ハッカーという道具を使い鉄筋を結束線で補強し直したり、本来埋まってはいけないものまでコンクリートで埋まらないように見張ったりする仕事です。コンクリートを打つ土工さんに対して、設備会社と電気会社が相番を出します。渋谷営業所はこの相番に強く、これを覚えると食いっぱぐれることはありません。肉体的には非常に楽な仕事です。

 僕も相番を覚えようと現場に行きました。鉄筋だらけで足元が悪く、少しよろけると、その場にいた作業員が、「おい、てめー飯食ってんのか?」ときました。オラオラ現場じゃねーか。うるせーよと思って無視しました。少しやってみると要領を得てきました。絶え間なく来ていた生コン車がいったん途絶えたとき、先程の作業員が声をかけてきました。

「何で来たんだ?」

「電気です」

「ひとりで来たんか?」

「はい」

 と答えると、

「今日はいいけどな、山ダムの現場はひとりで行くな」と目をギョロリとさせて言いました。訳が分からないので理由を聞きますと、「殺されるから」とのことでした。ダム現場で喧嘩なんかすると、すぐにコンクリートで埋めてしまうらしい。ひとりぼっちだと行方不明になっても「仕事が嫌になって帰った」で済まされてしまうから、必ず五、六人の仲間で行きなさいと真面目な顔をして言います。ひとりやなくても絶対行かへんわと思いました。

 僕は殺されないように、初めて会う設備会社の相番のおじさんと一緒にお昼ご飯を食べました。

●肉体労働芸人、ソラシド・本坊を追った実録ムービー「本坊元児と申します」
2/3(火)0:00よりYNNにて配信開始! http://ynn.jp/

撮影/山田耕司(扶桑社)

プロレタリア芸人

肉体労働現場のリアルでディープなエピソードを詰め込んだ珠玉の一冊




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