劇団ひとりは売れてもパンクで危険な芸人――『キス我慢選手権 THE MOVIE2』監督インタビュー

 バラエティ番組の映画化が異例のスマッシュヒット! その裏側には、主演の劇団ひとりと、その他キャスト・スタッフ陣の、心理合戦とも言うべき熱い闘いが繰り広げられていた――。『キス我慢選手権 THE MOVIE2』の監督・脚本を務めた『ゴッドタン』(テレビ東京 毎週土曜 深夜1時45分から放送)佐久間宣行プロデューサーに話を聞いた。 ◆劇団ひとりの超人的アドリブ! ――全編アドリブということで、かなり大変な撮影だったそうですが、どの辺りが一番苦労しましたか?

佐久間宣行監督

脚本の段階で一番悩みました。劇団ひとりのアドリブが同じものが出てこないように、追い込み方を変えていったというか。2013年に一作目を公開したんですが、そのときは「こういう追い込み方をしたら、とんでもないアドリブが引き出せるんじゃないか?」というのを楽しみながら作ったんです。 でも二作目で同じ追いこみ方をしたら、同じアドリブが出てくるかも知れないんですよね。劇団ひとりのアドリブが前作を超えられるかに掛かっていたので、こっちの追い込み方だったり、ストーリーの構成だったりを変えていくっていうバランスを取るのが難しかったですね。 でっかく言うと、大喜利のお題を考えるわけなんです。いいお題じゃないと、面白い答えって出てこないんですよ。この企画に関しては、お題を考えるのが脚本でした。 ――脚本を書く上で、前作と変えたところは? 劇団ひとりが乱暴狼藉というか、どこでストーリーをぶち壊しても何とかなるような出口を置いておこうと思いました。キャスティングでも、唐突にマキタスポーツを入れてみたり、同期で信頼関係がある安井順平くんをバディ役にしたり。劇団ひとりが安心してフルスイングできる環境を作るようにしました。 脚本も、このポイントで最終的にこの話に戻せばどうにか成立するとか、この分岐点に乗っかれば劇団ひとりがいくら壊しても回収される、というように考えて。パズルを組み立てるみたいな感じですね。 ――もしそういう作り方をしなかった場合、どうなっていたでしょうか……? 劇団ひとりは頭がいいので、「オレが無茶しちゃったら、駄目だな」と思ったら、7割の力でやるというか、そういうのができる人なんです。でも劇団ひとりに気を使わせたくないので、「滅茶苦茶やってもなんとかなるんだろうな」と思わせる。それはこの映画だけでなく、バラエティ番組をやる上でのアプローチですね。この現場とこのスタッフなら、台本通りじゃなくても、面白いと思ったことをその場でやってもどうにかしてくれるだろうという。このキャッチャーなら、この変化球を投げてもピッチャーが受けてくれる、という信頼関係ですかね。 ――劇団ひとりさんは、映画の最初は戸惑っていましたが、だんだんノッていきましたよね。 最初は全貌が分からないから、どこまで踏み込んでいいか手探りだったと思うんですよ。目の前の球を打ち返すだけで。でもストーリーが進むにつれて何となく見え始めてからは、「この方向でアクセル踏んでいいのかな?」と思いながらやっていたと思います。 ――ラストがかなり衝撃的ですが、そこは劇団ひとりさん、“超えちゃった”感じですか? 現場はざわつきました(笑)。ざわついたんだけど、対応するための準備をしながら、これがバラエティと映画の間のワクワクだよな、と思いました。バラエティのディレクター陣も近くにいたのが良かったです。そういうハプニングには動じないので。 ――あのラストになって、劇団ひとりさんの感想はどうでしたか? 全部撮り終わってから、「あんなところであんなことしちゃって、すみません」と言っていました(笑)。キスをしたら映画は終了なんですけど、頭の片隅では、「まだ回収されていない話がいくつかあるから、この先も続くんだろうな」というのがあるんだけど、気持ちがノッちゃったと。この人だれだったんだろう?というバラシがない内は、ストーリーは続いているんだろうな、というのはあったみたいですね。まあ、ああいうラストになったんですけど(笑)。 ◆映画の中のバラエティ番組要素 ――テレビの要素が散りばめられていますよね。東京03の飯塚さんのシーンとか。 入江雅人さんが飯塚さんに、「コント番組なんてもうないのに、ファミレスでずっとネタを書いている」と言うところですね。あれは台本になかったんですよ。飯塚さんにそう言ったら面白いよ、と入江さんにその場で耳打ちして撮っただけです(笑)。
東京03・飯塚悟志

東京03・飯塚悟志

――「プログラム」と「番組」というところにメッセージ性を感じました。思わず泣いちゃいました……。 ありがとうございます(笑)。最初は違う方向で台本を書いていたんですけど、プログラムと番組、という言葉を思いついてから、台本を全部書き直したんです。そうしたら綺麗に繋がったんですよね。バラエティで番組を作っている僕らが映画を作るときに、やるべきことかなと思って。 ◆見返すたびに発見がある! ――映画館で観た人も、DVDを楽しめますか? この映画、劇団ひとり以外の役者さんのアドリブもたくさん入っているんですよ。劇団ひとりの言った想定外のリアクションで、他のみんなが「やべえな……」と思いながらやっている感じとか、注目すると面白いと思います。 あとは技術ですかね。カメラマンもアドリブなわけですよ。劇団ひとりがどこに動くか分からないんです。なので何台もカメラを設置しておいて、一番いいテイクのカメラが動いていく。それで、よく撮れたよなっていう画が結構あるんです。プールのシーンで、プールに落ちるんじゃないか?という場所から、なんとか上原亜衣ちゃんの表情を狙っているカメラがあったりして。それはすごい手振れしてるんですけど(笑)。 まずは劇団ひとりメインで見て、その後に劇団ひとりに“こんな目に遭わされる”周辺スタッフやキャストのことを考えながら見ると、楽しいと思います。ストーリーも、実は細かいところに伏線を張ってあるので、見返すたびに新しい発見があるかなと。 ――特典映像は本編より長い3時間半超えですね! 僕らの班の悪い癖で、入れちゃうんですよ、勿体なくて。セクシー女優の三人(上原亜衣さん、小島みなみさん、白石茉莉奈さん)が一般の人に「キス我慢」したやつとか、撮り下ろしが充実しています。三四郎・小宮が、小島みなみちゃんと東武動物公園でハニカミデートしてるやつとか、バカみたいに面白いですね。それもおぎやはぎとか劇団ひとりがウォッチングしています。 他にも、今回の映画は実際4時間以上あったので、カットしたシーンが未公開映像で入っていますね。特典映像も、基本的に僕が全部撮りました。舞台挨拶もトークショーも入っています。 ――未公開映像はどんな内容ですか? 白石茉莉奈さんのお色気シーンとか、あれ、倍以上撮ってるんですよ。あとは複数トラップを仕掛けていたところも、複数入れると同じ笑いのブロックが続くので丸々カットしたんです。それも全部入っています。長さとかひっくるめてカットした部分なので、映画に使ってもいい内容なんですよ。もちろん、バナナマンとかおぎやはぎもウォッチングしていますし。 エンディングの後、みんなで延々と反省会をしたんですけど、それも結構長めに入っています。本当はこうなるはずだった、とか。劇団ひとりも、「なんであんなこと言っちゃったのか……」とか(笑)。 ――映画を撮り終えて、劇団ひとりさんへの評価は変わりましたか? キス我慢選手権 THE MOVIE2劇団ひとりとは十年くらい一緒にやっているので、自分の中で、「劇団ひとりは天才なんだけど、こういう範疇の芸人さんなのかな」と、わかったつもりでいたんですけど。でもそんなことなくて、あれだけ売れてもパンクで危険な芸人さんなんだっていうのは、改めて知りましたね。 とにかく劇団ひとりのアドリブが神がかっている。その凄さを引き出しているのは、佐久間監督を始めとするスタッフとキャスト陣だ。「笑って泣けるコメディ映画」ではなく、ここまで笑い切れる映画というのも珍しい。ストーリーは複雑だし、シリアスと言えばシリアスなのだが、どうしたって笑ってしまう。ラストの劇団ひとりの台詞だけ、ボロ泣きした。あれはおそらく、芸人としての心の叫び――。この映画は半端なく奥深い、究極のバラエティなのではないだろうか。 <取材・文/尾崎ムギ子> ●『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ』 2015年2月27日(金)豪華版/通常版ブルーレイ&DVD発売 ※豪華版Loppi・HMV限定販売 <豪華版> Blu-ray ¥5,800+税 DVD ¥4,800+税 発売元・販売元:テレビ東京 <通常版> Blu-ray ¥4,700+税 DVD ¥3,800+税 発売元:テレビ東京 販売元:ポニーキャニオン 2015年3月3日(火)DVDレンタル開始 (C)2014「キス我慢選手権 THE MOVIE2」製作委員会 出演:川島省吾(劇団ひとり) おぎやはぎ バナナマン/福士誠治 中尾明慶 柄本時生 安井順平 上原亜衣 小島みなみ 白石茉莉奈 松丸友紀(テレビ東京アナウンサー) 三四郎 東京03 深水元基 マキタスポーツ 入江雅人 戸次重幸 近藤芳正 伊藤英明 脚本:森ハヤシ 佐久間宣行 構成:オークラ 音楽:岩崎太整 監督:佐久間宣行 公式HP:www.god-tongue.com / 公式Twitter:@kissgaman_movie / Facebook:www.facebook.com/kissgamanmovie
ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE 2 サイキック・ラブ

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