もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら…ウケるパロディ作品はいかにして生まれるのか?
いまネットで火がついた2冊の「パロディ本」の売れ行きが好調だ。
一冊目は『もしも矢沢永吉が「桃太郎」を朗読したら』(星井七億・著、鉄人社)。そのタイトル通り、『桃太郎』を矢沢永吉の口調で書きなおしたパロディ小説をはじめとした37作品が収録された短篇集だ。
もう一冊が『【至急】塩を止められて困っています【信玄】日本史パロディ戦国~江戸時代編』(スエヒロ・著、飛鳥新社)。織田信長のLINEのやりとりを想像したスクリーンショットなど、歴史上の人物と現代版のWEBサービスを組み合わせたパロディ作品が多数収録され、若者を中心にネットユーザーから高い人気を集めている。
ネット上の「ウケる」文脈を踏まえ、ある設定のもとで作品を仕上げる新たなパロディ文学と言える両作品。
こうしたパロディ作品はいかにして生まれたのか。『もしも矢沢永吉が「桃太郎」を朗読したら』の著者・星井七億氏に本作が生まれた背景やネットでウケるパロディ作品のコツを聞いた。
◆パロディをなぜはじめたのか
――なぜパロディ作品を発表するようになったのでしょうか?
星井:もともと誰かを楽しませたり笑わせることが好きでした。もっとも影響を受けたのが90年代のダウンタウン。『ガキの使い』を見ながら、面白さを分析していましたね。
――著書では「桃太郎」をいろんな人物が読み上げているのですが、各テーマがネットでウケる文脈をとてもよく捉えている印象です。ネットには長く触れてきたのでしょうか。
星井:2000年ごろからネットに触れてきました。そのころからパロディ作品を少しづつ発表していて、今に至ります。
――著書の中でも特にネットでウケたのがTwitterなどで見られる不毛なリプライ、通称「クソリプ」を文中に埋め込んだパロディ小説『クソリプだらけの桃太郎』でした。
星井:あれはクソリプを深堀りするのが目的なんですよね。クソリプを攻撃するつもりはまったくなくて、あくまで目的は笑いをとるところにあります。ネット上での評価が高いのは嬉しいですね。
――ほかには『風俗の体験談みたいなおとぎ話』も人気です。風俗レポート記事独特の文体とテンションで「浦島太郎」を書き上げています。「辿り着いた竜宮城で浦島ちゃんを出迎えてくれたのは、この城ナンバーワンだという二十代前半の乙姫ちゃん!」という文は、完全に風俗ライターが書く記事の傾向を掴んでいますね。
星井:下ネタを一切使わず、雰囲気だけで下ネタっぽく書きました。ちゃんと読んでもいやらしいシーンは一切入っていないんですよ。パロディ作品は自分で制限やルールをつくるのがポイントです。
◆秀逸なパロディ作品を生むためには
――パロディ作品を書き上げる上で参考にされたり影響を受けた作品や著者はいますか?
星井:本を出してから、『筒井康隆さんのようだ』と評されることが多いのですが、僕が影響を受けているのはむしろ清水義範さん。筒井さんが破壊的な作風で笑いを生み出すとしたら、清水さんは構築的に笑いをとるんですよね。
彼は自分なりの理論をもとにしたような文章を書いているんです。なかでも『永遠のジャック&ベティ』は特に影響を受けている作品。中学校の英語の教科書に出てくるジャックとベティというキャラクターが、中年になってから再会するとどうなるか、という小説です。教科書通りにはうまくいかない現実をいろいろな皮肉を込めて描いています。設定を想像して自分なりのルールを設けて作品を仕上げるのが好きなんです。
――ほかに参考にしているものは?
星井:よく触れているのは喜劇と落語。落語は声に出したときのタイミングやリズムが心地よく、脳にすんなり入っていく。音読したときのテンポのよさを意識して文章を書き上げています。特に桂枝雀さんの落語はおもしろい。読んだときの心地よさを意識したことが私の作品がウケた理由かもしれません。
――今後もネット上に作品を公開していくのでしょうか
星井:いろいろなバリエーションで作品を発表していく予定です。パロディ小説だけではなく、落語家に迫ったルポタージュなんかもやってみたいですね。
<取材・文/日刊SPA!編集部>
『もしも矢沢永吉が「桃太郎」を朗読したら』 ネットで話題のパロディ作品が多数収録 |
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