元九州電力社員が実名で原発反対【後編】
◆福島原発の事故原因を津波のせいにしていいのか
鹿児島県薩摩川内市峰山地区コミュニティ協議会会長の徳田勝章氏は、原子力発電そのものに反対しているのではないという。
「地元住民に、原子力発電の安全性に対しての疑問があるから反対しているのです。原発の『技術屋』にはおごりや過信があります。例えば、川内原発の復水器の高さは13mのところにあります。これが浸水するとプラントが動かなくなるという大事な施設です。ところが、この地域には高い津波が来ないということで、防潮堤を作る計画すらありません。しかし、事故というものは悪条件が重なった時に起こるもの。津波は3mしかなくても、高潮、満潮、大雨や台風などと重なれば、波の高さは最高17mまで達します。それを無視して安全と言われても、安心できるわけがありません」
同じ九電の中でも、技術屋と立地屋の間では相当なやりとりがあったという。
「耐震設計にしても、もともと川内原発の地震加速度の限界値は370ガル、その後引き上げても540ガルです。じゃあ1000ガルならどうなんだと技術屋に聞くと、大丈夫だが公にできないという。九電で働いていた時、私は『これだけ対策をすれば安全だ』ということで住民を説得してきました。私を含めて電力会社が言ってきた『安全』は、現実には不十分だったということなんですよ」
徳田氏は、福島第一原発の事故を津波のせいにしてしまう態度にも問題があるという。
「事故原因を津波のせいにしていますが、じゃあなぜ女川はすぐ動かさないんですか?と川内の住民も思っています。重油タンクなども壊れているし、動かせるはずがないんです。ところが国も電力会社もそれを公開しないし、質問しても答えない。そういった情報も開示しないのに、地震は問題ないと言われても、原発周辺の住民は枕を高くして寝られません。まずは住民に広く説明しないといけません」
地震対策の不十分さは、情報公開の不徹底さにとどまらない。
「断層だってどこにあるか分かりません。例えば、この地域は鹿児島県北西部地震(97年、M6.4)に襲われました。薩摩川内市は震度6弱を観測しましたが、その時の断層は見つかっていません。隠れた断層がたくさんあるんです。例えば直下型の大きな地震も起きうるし、それを基準に耐震設計をしなければなりません」
ストレステストのあり方に関する国の姿勢にも疑問を投げかける。
「原発の運転中はテストなしでも稼働させたままでいいというが、本当は運転中のほうが危ないんですよ。運転中も停止中にかかわらず、すべての原発でテストをすべきでしょう。
市や県には振興計画がある。でも、地区単位ではないんです。九電在職中、原子力立地をする時に地域振興の計画がないというのが私の悩みだったし、地元の人たちにも地域のためにならないことがわかりました。コミュニティで振興計画を作って地域おこしをやった現在、全国から年間3000人も視察に来るんです。
3.11で状況は変わったんです。これからは、再生可能エネルギーに舵を切ることも大事でしょう。柳山周辺では、2300kWの風力発電機を12基建てる計画があります。山の中だから騒音の影響もなく、観光資源にもなります。峰山地区では将来的に500戸の定住者増を目指していますが、原発が足かせとなってしまっているのです」
【徳田勝章氏】
55年、九州電力に入社。本社広報課長、川内原子力発電所次長、後に社長直轄の嘱託として、一貫して原発立地対策に務める。97年に峰山地区に戻り、05年から峰山地区コミュニティ協議会会長を務める
― 原発を造った男たちの原発批判を聞け【4】 ―
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