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『全裸監督』黒木香の許可なし問題に「実話モノは大変…」という制作事情

 8月8日からNetflixで配信されているドラマ『全裸監督』(全8話)が話題だ。実在のカリスマAV監督・村西とおるを山田孝之が演じ、シーズン2の制作も発表された。
全裸監督

Netflix『全裸監督』

「傑作!」という評価がある同作だが、先月、Webサイト「女子SPA!」で掲載された記事が話題を呼んだ。制作の際に、ドラマに登場する元AV女優・黒木香の同意はあったのかという質問をしたところ、Netflix側は「黒木さんご本人は関与されていません。あくまでも本橋信宏著『全裸監督』という原作に基づいた作品です」と答えたのである。 【参考記事】⇒話題沸騰、山田孝之主演ドラマ『全裸監督』黒木香さんの同意は?Netflixに聞いてみた  これは、コンプライアンスや、個人の権利の重要性が叫ばれる昨今、視聴者からすれば驚きの回答だ。しかし、制作側からは「致し方ない」という意見もある。

許可取りの難しさ、わずかな脚色で訴訟まで

「実話の実写化で一番大変なのが許可取りです。名作や大ヒットするであろう題材も、モデルとなった人物ひとりがNGを出すことで、制作がとん挫することもあります」  そう話すのは、ある映画・映像制作会社に勤めるA氏。彼は今も同時進行で数多くの映像企画に携わっている。 「実際、モデルとなった人物すべての元へおもむいて、許可をもらって制作に至っても、内容に口を出されたり、完成後に『史実と違う』と訴えられたりすることもありました。野球でいえば、史実では3番打者だったのを演出上4番打者に変更する程度の違いなのですが……」(A氏、以下同)  Aさんが重ねて言うのは、モデルの人物には尊敬と人生エピソードをお借りする感謝の気持ちはこの上なくあるということ。だからこそ、その事実を知ってもらい、多くの人の心を掴むために脚色や変更をすることもある。  脚色も含めて了解してもらった上で許可を得るのは、さらに難しくなってしまう。それゆえ、実際制作する前の段階で、頓挫している企画も多いのだとか。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 

現在公開中の大傑作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、実話ではないが、ブルース・リーの描き方に遺族から抗議がきた。Q.タランティーノ監督は反論している

“実話を元にしたフィクション”で強行するケースも

 一方で実話がモデルとなった映画は多数制作され、ヒット作が生み出されている。その中には、非道な事件であったり、実在の犯罪被害者が悪く描かれていることもある。それらも許可をとった上での映像化なのかと聞いたところ――。 「普通に考えて、取っているケースは少ないでしょう。プロモーション資料などにも、『モチーフにして』だとか『フィクションを交えて』との表現になっていると思います。『全裸監督』も制作サイドは『原作書籍の映像化』と言っていますよね」  何か問題になった際の逃げ道を作っておくということだろう。また、許可を取る際のやり方として、こういう方法もあるのだという。 「通常は企画が通った段階、もしくは企画時点で、モデル人物や遺族に話を通すのですが、回答を待たずに制作に入ることもあります。すべてでき上がった段階で『これを公開します』と許可していただくことを前提に話を持って行けば、リスクは多少ありますが、制作前にすべての許可を取るよりOKがとりやすくスムーズにいくんです」  その作品が素晴らしければ、多少誇張があっても許してくれるということか。また、多少納得がいかなくても、撮り終わった作品を盾に強気に出られると、OKを出さざるを得なくなってしまうのだろう。
映画『バイス』公式サイト

チェイニー副大統領をクソミソに描いた映画『バイス』(2018)は、本人の許可ナシで「全部ホント」と銘打つド根性。多くの賞に輝いた

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自主製作は無法地帯の面も
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