なぜ家電メーカーは苦境なのか?
5年先まで生き残れる会社と、生き残れない会社の違いとは、一体何なのだろうか。ダメになりやすい会社の共通点を、産業構造、企業風土、財務状況などの観点から探っていく。あなたの会社は大丈夫だろうか?
◆家電メーカー壊滅状態!「何が日本企業を殺すのか?」
シャープの急激な業績悪化の背景には「<総合家電メーカー>という業界全体が末期を迎えている」という“現実”がある。
「日本の家電メーカーは本当に八方ふさがり。従業員に中高年が多く、その人件費を全部抱えているので、台湾や韓国にコスト面で太刀打ちできないのは当然です。同じ製造業でも、自動車メーカーの場合は部品がアナログの技術で作られているので簡単にはコピーできない。そこに競争力があるわけですが、家電の場合はモジュール化した部品を機械的に組み立てれば商品が完成するので、熟練工でなくても作れてしまう。そこを、台湾や韓国の若い労働力に持っていかれた」と、投資ブロガーの藤沢数希氏は解説する。
経営コンサルタントの鈴木貴博氏によると、家電メーカーに限らず、日本の製造業を“消滅”に追い込み得る状況は、大きく3つのパターンに分類されるという。
(1)は「ゲームのルールの変化」。前述のシャープのように、「性能差で勝負する」というルールが、いつの間にか「スケールメリット(大量に生産してコストを下げる)だけで勝負する」というルールに変わっていたという例だ。世界を相手に戦う日本企業は皆、この苦況に直面している。
(2)は、経営用語で「イノベーションのジレンマ」と呼ばれるもの。代表的なのが、任天堂などの家庭用ゲームがスマホゲームに取って代わられた例だ。
「性能の低いところからやってきたスマホゲームが、性能が高い家庭用ゲームを破壊してしまうというジレンマです。任天堂では、これまで独自のハードを提供し、そのハードでしか動かないゲームを売るというビジネスモデルで儲けてきたので、そうそうスマホには舵を切れない。かといってスマホの普及を食い止めることもできないので、対抗策が取りづらいのです」(鈴木氏)
イノベーションのジレンマは、ボイスレコーダーやカーナビなど「スマホでも用が足りてしまう」さまざまな分野において進行中だ。
そして(3)が「商品自体が別の商品に置き替わる」という事態。
「もっとも影響が多いのは、自動車から電気自動車へのシフトでしょう。自動車メーカーの下には膨大な数の部品メーカーがあり、それが膨大な雇用を生んでいますが、自動車が電気自動車にシフトすることで要らなくなる部品が出てくる。エンジンや変速機関連の部品メーカーは厳しいでしょう」(同)
いずれも、乗り越えるのは簡単ではない状況だ。だが、炭鉱が行き詰まってリゾートホテルを立ち上げた「スパリゾートハワイアンズ」のように、まったく畑違いの事業で生き延びた例もある。液晶パネルにしても、かつて「Wooo」ブランドを展開していた日立はあっさり液晶から手を引き、情報・通信システム事業で業績を伸ばした。目下、最高益を更新中だ。
当たり前のことだが、同じ厳しい状況に置かれていても、経営判断によって明暗は分かれる。次回は、「暗」に陥りやすい会社の共通点を探っていきたい(⇒「経営破綻する会社のメンタリティは『ニート』に似ている」https://nikkan-spa.jp/315878)
最後に、藤沢氏はこう提言する。
「自分の会社が八方ふさがりだからといって、慌てて逃げ出す必要はないと思うんです。元気のいい会社だって、内情はブラックだったりする。30年間生き残れそうなブラック企業と、死にかけのヌクヌクとした大企業とどっちがいいのかって話ですよね。少なくとも、会社都合で割増退職金がもらえる状況で辞めるべき。JALの社員なんて、割増退職金の数千万円が不満で裁判を起こしているくらいで、人間って強欲になれば、死にかけの会社からでもたっぷり搾り取れるんですよ」
【鈴木貴博氏】
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング株式会社代表取締役。著書に『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』(朝日新聞出版)ほか
【藤沢数希氏】
外資金融勤務。主宰するブログ「金融日記」は月間100万PV、ツイッターのフォロワーは7万人に及ぶ。最新刊『外資系金融の終わり』(ダイヤモンド社)が発売中
― [5年以内に消える会社]の判断基準【2】 ―
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