更新日:2013年04月17日 11:09
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「コミュ力なんていらない」佐藤優が非コミュ漫画家に進言!?

 週刊SPA!でモテない男の群像漫画「アラだらけ君」を連載中の、非モテ漫画家・市橋俊介氏。このたび連載が奇跡の単行本化とあいなったが、モテない低年収漫画家をこれ以上続けていくべきか、はたまた廃業すべきかを考えあぐねていた。そんな市橋氏が、単行本化を記念して、今後の身の振り方を元外務省主任分析官の佐藤優氏に相談することに……。 【相談者】市橋俊介 漫画家 男性 38歳 アラだらけ君 私はかれこれ10数年、漫画家風素人という職業に従事している、アラフォー男子です。  率直に申しまして、将来がとても不安です。漫画に対する才能も、情熱も、出自にも乏しいと自覚している自分は今までは運だけで、生かされず殺されず、なんとかココまで来ましたが、さすがにそろそろ厳しいだろうと、感じております。しかしながら、漫画家などと言うつぶしの利かない仕事を続け、なおかつ久しく厭世的な生活を続ける中、元々歪んでいた性格が、更に歪みまくって、他人と上手く関わる事が出来なくなっている私に……  更には、体力も知力もない私に、何が出来るのか、サッパリわからず不安なのです。こんな私は、今を、そして今後をどのようにして生きれば良いのか、果てまた生きなければ良いのかなど、ご教示頂ければ幸甚です。 ◆佐藤優の回答 教訓:このままの姿勢で仕事と生活を続けるのが一番  私も市橋俊介先生のファンです。「アラだらけ君」は、本当に面白いです。「今までは運だけで、生かされず殺されず、なんとかココまで来ました」とおっしゃいますが、実力のある人しか運に恵まれません。実力があっても運が巡ってこないことはいくらでもありますが、実力のない人は、絶対に運をつかむことができません。それですから、市橋先生の将来は大丈夫です。  私は10年前の正月を暖房のまったくない東京拘置所の独房で過ごしました。しかし、獄中でも命を持っていかれることはないので、安心していました。私が外交官として仕事をしていたロシアや中東では、政争に巻き込まれて、逮捕されると、命を失うこともありました。そういう政争を何度も近くで見てきたので、生き残るための勘だけは強くなりました。勘も実力の一部です。この勘のおかげで、私は職業作家になることができましたが、本来ならば「アラだらけ君」のような生活をしていたと思います。市橋先生は、自らの能力と運を信じ、このままの姿勢で仕事と生活を続けるのがいちばんよいと思います。  市橋先生は、「久しく厭世的な生活を続ける中、元々歪んでいた性格が、更に歪みまくって、他人と上手く関わる事が出来なくなっている」とおっしゃりますが、私もかなり厭世的な生活を送っています。人間と会って話をするよりも、わが家の猫たち(いずれも去勢済みのオス。元捨て猫か元野良猫か元地域猫)と遊んでいる方が楽しいです。だいたいコミュニケーション能力などというわけのわからない規準が一人歩きしている日本の社会はおかしいです。「ブラック企業」に関する専門家の今野晴貴さんは、こう言っています。 <ふつう、欧米においては、採用は職業能力を基準に行われることが基本だ。具体的にどのような職業上の能力を有しているか、経験を有しているのか、このようなことが採用の基準である。不足があれば公共職業訓練を受けるなど、対策もはっきりしている。一方日本の企業の求める能力は「コミュニケーション能力」というあいまいで抽象的な基準がもっとも重視され、職業上の専門性は軽視されていることが知られている。就職活動と具体的な職業能力が結びつかないために、「自分探し」を強要される構図である。> (今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』文春新書、2012年、194頁)  作家も漫画家も表現者です。表現者の世界に上下関係はありません。政治漫画家や政治家を志望する作家で、自分がエライ人と勘違いしている本質的なバカがときどきいますが、そういうバカと付き合わずにも生きていけることが、われわれ表現者の強みです。世間から偏屈と見られようが、非社交的と批判されようが、読者に支えられ、読者と作家、漫画家をきちんとつないでくれる編集者との関係を維持することができれば、必ず食べていくことができます。このままでいいと、開き直りましょう。  職業は違えど、周囲とのコミュニケーションに悩んで自分を見失いかけている人は参考にするといいかもしれない。実態のない「コミュニケーション能力」なんて言葉に振り回される必要はない! と考えれば、ずいぶんと生きやすくなるはず。 ★悩める漫画家・市橋俊介さんの最新作「アラだらけ君」はこちらから立ち読みできます!⇒https://nikkan-spa.jp/421035 【佐藤優】 1960年生まれ。1985年に外務省入省。在英、在ロシア連邦大使館、国際情報局分析第一課で活躍。2002年に背任の容疑で逮捕。『インテリジェンス人生相談』個人・社会編に続く第3弾、新刊『インテリジェンス人生相談<復興編>』が発売中! <文/日刊SPA!取材班>
アラだらけ君

『非モテ男子』の生態が凝縮

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