好調も…松坂がメジャー昇格できない知られざる理由
「マツザカはなにか証明すべきものがあるようなピッチングをし、実際証明してみせた」
松坂大輔が再びメジャーリーグのマウンドに立つ日が近付いていることを、地元紙はいささか遠回しな表現で報じた。
ボストン・レッドソックスで6年間を過ごした後、今季クリーブランド・インディアンスとマイナー契約を結んだ松坂。現在はインディアンスの3A球団、コロンブス・クリッパーズに所属し、シーズン終盤でのメジャー昇格に向けて猛アピールを続けている。
8月8日、3Aのルイスビル・ビッツ戦に先発した松坂は、7回5安打1失点の好投で自身3連勝。ここ8試合連続で6イニング以上を投げ、直近の6試合では4勝1敗、防御率1.91をマークするなど抜群の安定感を見せている。
コロンブスの地元メディアは8日の試合後、「マツザカのピッチングはグッド以上、グレートだった」「かつてのスターピッチャーが、またしても圧倒的なピッチングを見せた」と絶賛。また「(松坂が)次にクリーブランドへ向かう1番手のピッチャーに躍り出た」と報じた。
◆じつは「3軍扱い」の契約
松坂のピッチングを絶賛した地元紙の報道を受け、日本の一部メディアも「松坂、近日中にメジャー昇格か?」と報じた。しかし、そう都合良くはいかないようだ。
言うまでもなくMLBは、実力と結果が全てのシビアな世界。しかし結果を残しても、今回の松坂のように必ずチャンスが訪れるとは限らない。特にマイナーからメジャーへの昇格は、主力選手の故障離脱やトレード、さらには契約内容によって大きく左右される。
では一体、メジャー昇格にはどんな契約が有利なのか?
実は今シーズンの松坂は、各球団が優先的な保有権を有する「40人枠」での契約を交わしていないのだ。松坂にとってこれはかなりの痛手。チームの「40人枠」は、25人のメジャーリーガーとDL(故障者リスト)選手、そして将来有望の若手選手によって占められる。
3Aと聞けば、一般的には”メジャーに一番近いマイナーリーグ”である。それはもちろん正しい解釈だが、一方で松坂のように3Aでプレーしながら、40人枠に入っていない3A選手は、日本で言えば「3軍」という感覚だ。
より多くの実践を積むなどの理由で、40人枠に入っていながら3Aより格下の2Aで試合に出場している選手のほうが、実は「格付け」は上なのである。ちなみに3Aでプレーしているオリオールズ和田毅、アスレチックス中島裕之、ジャイアンツ田中賢介の3選手は、いずれも40人枠の選手だ。
インディアンスは先日、先発ローテーションの一角を担っていたコリー・クリューバーがDL入り。その穴を埋めるため、チームは松坂を昇格させるかに思われたが、昇格したのは23歳のルーキー右腕ダニー・サラザーだった。仮に実力が拮抗した選手が2人いるとしたら、ピークを過ぎたベテランよりも、若く将来性のある選手にチャンスを与えるのは一般論だが、メジャー経験のなかったサラザーは、球団が期待をかけるトッププロスペクト(有望)選手として「40人枠契約」を有していたのだ。
こうした“知られざる契約上のルール”に泣かされている松坂は、実際はいつコールアップされてもおかしくないほどの成績を残しているにも関わらず、今季はまだメジャーのマウンドを一度も踏んでいない。
◆9月に昇格の可能性は?
松坂が今季メジャーに昇格するとすれば、現実的には9月に入ってからが濃厚だ。なぜなら今の松坂がメジャーに昇格する場合、現在の40人枠外から40人枠に登録され、さらに25人のメジャーロースターへ登録される「2階級特進」が必要だからだ。
メジャーには、“セプテンバーコールアップ”と呼ばれるベンチ入り人数が25人から最大40人に拡大される時期がある。その数が拡張するのは、マイナーリーグのレギュラーシーズンが終了を迎える9月1日から。しかし、その場合でも松坂は40人枠に入る「1階級特進」が必須条件となるが……。
「松坂好投、近日中にメジャー昇格か?」という記事に裏切られているファンも少なくないだろうが、現実は極めて厳しいといわざるを得ない。(記録等はすべて8/11現在)
<取材・文/スポーツカルチャー研究所>
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海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当
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