ドジャースタジアムに「スキヤキ」が帰ってきた日――ミリオン作曲家がダル&マエケンが投げるドジャースタジアムの“音”の魅力を解説
今季からDAZN(ダゾーン)でメジャーリーグ中継の解説をしております成瀬英樹です。野球の世界ではオールドルーキーになりますが、本業は音楽家で、主にポップスの作曲で食っております。代表作は2016年にAKB48に提供した『君はメロディー』などがあります。
ちなみにAKB48とメジャーリーグには、共通点がひとつあります。それは「メンバーがたくさんいて最初は戸惑うが、わかってくるととても楽しい」というところです(笑) 僕は兵庫県の出身で、子供の頃から近鉄バファローズの大ファンでした。僕と同じ’68年生まれの野茂英雄投手が投げる試合は可能な限り球場で観て応援してきました。その野茂投手がメジャーリーグに渡った’95年から、僕の興味はプロ野球からメジャーリーグに移って早20年以上。今回、週刊SPA!でメディアパスを取ってもらって生まれて初めてMLBを取材する機会をいただきました。 かつて野茂英雄投手が所属し、現在はダルビッシュ有投手、前田健太投手が所属するロサンゼルス・ドジャース。そこに僕はどうしても話を聞きたい人物がいました。ドジャースタジアムのオルガンプレイヤー、ディエター・ルールさんです。ドジャース戦を解説しながら、テレビ観戦しながら、彼の奏でる選曲やオルガンサウンドに僕はいつも感心していました。僕が取材した9月5日も、ザ・ローリング・ストーンズ「黒くぬれ!」、ザ・ドアーズ「ハートに火をつけて」、ラヴィン・スプーンフル「サマー・イン・ザ・シティ」などのご機嫌なクラシックロックのチョイスで観客を盛り上げていました。本当に素敵なセンスだと思います。 ディエターさんの仕事場はバックネット裏の記者席の横。一台のシンセサイザーと左右に一台ずつ効果音用のサンプラーという機材をセッティングして、オルガンプレイと同時に観客を煽る「タン・タン・タタタン」的なサウンドを器用に操っていきます。 試合の始まる1時間ほど前の時間を割いていただき、ディエターさんに話を伺うことができました。まずどんなミュージシャンに影響を受けてきたの? 例えばブッカー・T・ジョーンズやジミー・スミスなど、偉大なオルガンプレイヤーを聴いて育ったの? と尋ねました。ディエターさんの弾くオルガンにファンキーな格好良さを僕は感じていたからです。すると彼ははにかみながら「いやぁ、実は僕が好きなのはデペッシュ・モードなんかのエレクトリックサウンドなんだよね」と言って笑いました。
聞けばディエターさんは元来、ドジャースタジアムのレフトスタンドでグラブを持って観戦していたような野球少年だったとか。「シカゴ・コミスキーパークの名オルガン奏者、ナンシー・ファーストさんの球場を盛り上げるオルガンプレイに憧れていたから、今の仕事は本当に楽しいよ」と笑顔で語る彼は、ドジャースタジアムで3シーズンのアシスタント奏者を経て、現在3シーズン目。本当に楽しそうに仕事をしていました。
「選曲は毎日入れ替えてリストにしているんだ」と彼は言います。「例えばデイゲームなら『サニー』や『サマー・イン・ザ・シティ』を入れる。雨が降ったら”Rain”っぽい楽曲をチョイスするよう心がけている。試合が終わると、翌日のゲーム用にプレイリストを準備して、自宅で練習してからゲームに備えるんだ」。そう言って、彼はタブレット端末に保存されているセットリストを見せてくれました。トレードでやって来たばかりのダルビッシュ有投手用にはカーペンターズの「遥かなる影(Close To You)」がセレクトされていて、やるなあ!と思いました。”They long to be close to Yu” というわけですね。
最後にディエターさんにお願いをしてみました。「スキヤキ(上を向いて歩こう)」をレパートリーに入れてもらえませんか?と。かつてはこのドジャースタジアムで野茂英雄さんの登場曲として使用されたこともあるこの名曲は、日本人にとって特別な曲です。前田投手やダルビッシュ投手が投げる日にプレイすれば、選手も観客もきっと喜んでくれると思うんです、と説明して。
「いいね!ぜひ演ってみるよ!」と快諾してくれた彼と固く握手を交わした翌日、僕は嬉しいニュースを受け取りました。取材翌日の現地9/6、前田健太投手の打席でディエターさんが「スキヤキ」をプレイしてくれたというのです。
さらに今日、東京に戻った僕がDAZNで解説をした試合でも、ダルビッシュ投手の打席で再び「スキヤキ」が流れました。自分のリクエストがMLBのスタジアムで流れて、その試合を解説できるなんて!はじめて取材で訪れたドジャースタジアムでのミラクルの連続に、胸がいっぱいになりました。本当にありがとう!ディエターさん!
ここ直近は連敗が続いているものの、圧倒的な強さで10月のポストシーズン行きを確実なものにしているロサンゼルス・ドジャース。ダルビッシュ投手や前田投手を応援しながら、ディエターさんの奏でるオルガンサウンドにも注目していただければ、メジャー中継がより一層、楽しめることと思います。
取材・写真・文/成瀬英樹(スポーツカルチャーラボ)www.scl.tokyo
成瀬英樹HP http://www.hidekinaruse.com/
ちなみにAKB48とメジャーリーグには、共通点がひとつあります。それは「メンバーがたくさんいて最初は戸惑うが、わかってくるととても楽しい」というところです(笑) 僕は兵庫県の出身で、子供の頃から近鉄バファローズの大ファンでした。僕と同じ’68年生まれの野茂英雄投手が投げる試合は可能な限り球場で観て応援してきました。その野茂投手がメジャーリーグに渡った’95年から、僕の興味はプロ野球からメジャーリーグに移って早20年以上。今回、週刊SPA!でメディアパスを取ってもらって生まれて初めてMLBを取材する機会をいただきました。 かつて野茂英雄投手が所属し、現在はダルビッシュ有投手、前田健太投手が所属するロサンゼルス・ドジャース。そこに僕はどうしても話を聞きたい人物がいました。ドジャースタジアムのオルガンプレイヤー、ディエター・ルールさんです。ドジャース戦を解説しながら、テレビ観戦しながら、彼の奏でる選曲やオルガンサウンドに僕はいつも感心していました。僕が取材した9月5日も、ザ・ローリング・ストーンズ「黒くぬれ!」、ザ・ドアーズ「ハートに火をつけて」、ラヴィン・スプーンフル「サマー・イン・ザ・シティ」などのご機嫌なクラシックロックのチョイスで観客を盛り上げていました。本当に素敵なセンスだと思います。 ディエターさんの仕事場はバックネット裏の記者席の横。一台のシンセサイザーと左右に一台ずつ効果音用のサンプラーという機材をセッティングして、オルガンプレイと同時に観客を煽る「タン・タン・タタタン」的なサウンドを器用に操っていきます。 試合の始まる1時間ほど前の時間を割いていただき、ディエターさんに話を伺うことができました。まずどんなミュージシャンに影響を受けてきたの? 例えばブッカー・T・ジョーンズやジミー・スミスなど、偉大なオルガンプレイヤーを聴いて育ったの? と尋ねました。ディエターさんの弾くオルガンにファンキーな格好良さを僕は感じていたからです。すると彼ははにかみながら「いやぁ、実は僕が好きなのはデペッシュ・モードなんかのエレクトリックサウンドなんだよね」と言って笑いました。
ダルビッシュのために弾く曲は……
マエケンの打席で、筆者のリクエストが!
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