【松坂電撃移籍】即先発の裏に敏腕代理人の影
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契約を交わしていたクリーブランド・インディアンズに自ら退団を申し入れた松坂大輔が、ニューヨーク・メッツと契約、即先発した。
今季メジャー初先発となった今日のデトロイト戦は、初回、2回に2発の特大アーチを浴び、5回6安打5失点で敗戦投手となった。
しかし首脳陣は残りシーズンも松坂を先発で起用する方針を明言。松坂にとっては来季の契約を勝ち取るための最高の舞台が用意された。
ペナントレース佳境に退団を申し入れ、あっさり受け入れられるこの図式。日本ではちょっと考えられないが、アメリカ球界では時々ある話。
カギを握るのは、代理人だ。
松坂の代理人は、“スーパーエージェント”の異名を持つスコット・ボラス。「ボラス・コーポレーション」の代表を務めている。
西武からポスティング制度でMLB挑戦を表明した7年前、松坂はボラスと契約。今日に至るまで、良好な関係を築いている。
MLB選手たちの間では、タフな交渉が信条のボラスの評判は高い。他方、ボラスを毛嫌いする球団経営者は以外に多く、メッツも例外ではない。メッツの40人枠のロースターをよく見ると、ボラスと代理人契約を結んでいる選手は、たった一人しかいない。
しかも今回、ボラスはその「唯一の契約選手」を餌に、松坂の契約をねじ込んだのだ。まさにタフネゴシエーターの仕事ぶりが垣間見えた瞬間と言えよう。
ボラスの唯一のクライアントは、松坂と同じく先発右腕のマット・ハービー。2010年ドラフト1巡目指名の期待の星は、昨年後半にメジャー初昇格を果たすと、今季は開幕ローテーションを勝ち取り、これまで9勝4敗、防御率2.25。期待に違わぬ結果を順調に残している。
若きエースには長く活躍してもらうことが、球団・選手・エージェントの三者にとってベストシナリオ。ボラスは、メッツがハービーと契約を交わす際(最近でこそ業界慣習として当たり前になりつつある)にシーズン毎の投球制限を盛り込んだ。
2013年シーズンのハービーの投回数の上限は、シーズン200~210イニングと言われている。今日現在、既に171回を投げているハービーが、このまま先発5人ローテーションで投げ続けると、シーズン終盤の9月中旬には200投球回を越える計算となる。
そこでボラスが、メッツ球団に提案したと思われる”作戦”は、こうだ。
『先発5人ローテーションを6人に変更して、ハービーを今季終盤まで思う存分、起用してください。6人目の先発を用意しますから。誰かって? 昔、あなたたちが恋い焦がれた、ダイスケですよ!』
今季オールスターを開催するなど、前半戦の集客は悪くなかったメッツにとって、借金10でプレーオフ絶望的となった後半戦の集客にも、松坂が大きなプラスとなることは、容易に想像できる。
先発ローテの形成に留まらず、球団経営にまで口を挟むほどの影響力のあるスーパーエージェント。松坂は今日、惜しくも敗れてしまったが、明日のマウンドには本来であれば今日の先発が予定されていた、マット・ハービーが予定されている。
日本では到底計り知ることのできない、タフな交渉力と聡明な頭脳。敏腕代理人は、実に不気味な、しかし気になる存在だ。
<取材・文/スポーツカルチャー研究所>
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