“パンクの生きる伝説”横山健インタビュー。生き様を刻んだドキュメントDVD発売の胸中とは【vol.3】
KEN BANDのボーカル&ギター、Hi‐STANDARDのメンバー、インディーズレーベル「ピザ・オブ・デス」の社長、そして2児の父親……。いまやパンクロック界の“生きる伝説”とすら言われる横山健には、さまざまな顔がある。
そんな彼の活動や、これまでの半生などありのままの姿を収めたドキュメント・フィルム「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が、このほど発売された。
もともと昨年に映画として上映された同作品は、2週間の限定上映にもかかわらず約3万人を動員して大きな話題となった。加えて、今年5月には初の著書『横山健 随感随筆編』(育鵬社)を上梓するなど、横山健はここ最近、本業の音楽以外での発信も旺盛に行っている。そこにはどのような心理があるのか……。その胸中を語ってもらった。
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――DVDの話に戻りまして、お子さんが大きくなった時、自分の著書やDVDを見てほしいですか?
横山:読んでほしいし見てほしいですよ。でも一番イヤなのは、それで子供が、自分まですげーんだと錯覚することですよね。「俺のオヤジ、本も出してたいそうなこと言ってる。俺もその子供なんだ」と思わないように、日々教育したいなと。僕ら世代の親でいうと、みんな白黒の写真のアルバムを持っていたりするじゃないですか。それ程度で見てほしいですよね。「自分の親がどんな気持ちで生きてきたのか」っていうのを、知るきっかけ程度であってほしい。
――DVDにはステージ横でライブを見るお子さんの姿もありましたね。
横山:ちょっと前までは来てましたね。ただ、最近はあんまり呼ばないんですよ、あえて。もう、楽屋とかでハシャぐからやかましくて。僕もそうなるとライブどころじゃなくなっちゃうので(笑)。だから、もうちょっと成長して物心ついてきたら逆にいいかもしれないですね。僕自身も人生の岐路に立った時に、やっぱり一本一本のライブにそれぞれ意味を求めたりとか、戦っているつもりでやっているので、物心ついたときに、男としてどう生きていくんだとかを考えるじゃないですけど、そんな感じで見てくれたら嬉しいんですけどね。今はただの天狗になるための道具でしかないような気もするので。大事なことなので重ねて言いますが、「だからってお前がすげーんじゃねぇぞ」というのは、子供たちに本当に教えたいです(笑)。
――ピザ・オブ・デスレコーズも今年で設立15周年。社長としても激動の日々だったと思います。
横山:そうですね。もともと会社をやりたいという思いがある人間ではないので、何かのタイミングで会社を作って自分が社長になって、そこを通していろんな社会と接することができたのはよかったなと思います。確かに会社って利益を追求するものなんですけど、ウチはそうじゃなくて、会社の在り方としては間違っているのかもしれないけれども、僕は会社を社員との人生の共有の場だと思っているんです。所属してくれるバンドもそう。いろんな人生を重ね合わせている場所だと思っていて、そういう場所を持てたっていうのはすごく……すごく、自分にとって大きな意味がありますね。とはいえ、最初の1、2年は本当に大変だったんですけどね。だから多少無理して会社を作ろうとする人には「やめたほうがいいよ」って言いたいです(笑)。いらん苦労するよって。
――他人の人生まで自分が背負う部分が出てくるわけですしね……。
横山:社員とは背負い背負われって感じですよね。立ち上げの頃からいてくれる人なんて、20歳そこそこで入ってきて、今では結婚して子供がいますから。彼らのためにも、自分が曲がった思考をすると、その人の人生や子供の人生もダメにしちゃうと思うし。でも、結局は「自分らが楽しんでやっていたらそんなに変なことにはならないんじゃないか?」って信じてやっています。答えもゴールもないものなんですけどね。
――そういう意味では、音楽も含めて、横山さんがすることにはほとんど答えもゴールもないように思えます。
横山:そうかもしれないですね。だから、答えとかゴールがあるとすれば、自分がどれだけ充実しているか、自分がどれだけ幸せかっていうことだけだと思うんですよね。地位も名誉もお金も、これまで積み上げたキャリアだって、ゴールや解決にはなってくれない。その日一日が幸せだったどうかだけなんですよ、少なくとも僕が答えだと思うのは。「今日はイライラしたけど明日はコレを形にしてやるぞ」とか、「今日は子供と遊べなかったから明日は抱っこして寝てやるぞ」という、それくらいの積み重ねですよね。こんな社会で生きている以上、お金って絶対に必要ですけど、それがすべてじゃないです。
――最後に、DVDのなかで自分が思うハイライト・シーンを教えてください。
横山:監督と僕が2人っきりで、例のごとく隠し撮りされながら車でライブ会場に向かうシーンがあるんですよ。そこで僕がパンをモグモグ食べながらハイ・スタンダードについて語っているんですが、「つまらない意地だったけど、アレも必要だったのよ」とか言っていて、そこはすごい好きですね(笑)。あと、反原発ライブイベントに出演したシーンで、YMOのステージに僕が「ライディーン・ロボ」(段ボール製でボディに「ライディーン」とマジックで書かれた姿)で乱入するシーンも。あれ、実は事前にYMOの楽屋にその格好で挨拶に行って、坂本龍一さんと高橋幸宏さんには見てもらったら「横山くん、それで本番も出てきてよ」なんて坂本さんがおっしゃったんで、真に受けて出て行ったんですよ。けど、いざライブに突入したらお客さんはみんなポカーンとしているし、楽屋では細野晴臣さんは不在だったので、ステージであり得ないくらい冷めた目をされて……いやぁ、怖かった(笑)。まぁ実際にはその後に笑ってもらえたみたいなんですけどね。DVDでは笑えるシーンみたいになってるんですが、一方で実際にやっていた僕はメチャクチャ落ち込んでいたんで、そんな心情も見てもらえると嬉しいですね(笑)。
<取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/水野嘉之>
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