コレステロールは体に「良い/悪い」論争はなぜ起きるのか?
健康に関する情報が氾濫している昨今、どれが正しく、どれが怪しいかを一般人が見分けるのは難しい。特定の企業・団体の利権や意向が複雑に絡み、根拠の乏しい健康の常識も世の中には氾濫している!
◆基準緩和に論争勃発!?コレステロールは「体にいい」の主張
もともと血圧やBMI(肥満度)、LDL(悪玉)コレステロールをはじめ、健康診断の各項目の基準範囲は健診機関によってまちまちだった。そこで今年4月、人間ドック学会はすべての健診機関に適用可能な新たな基準値を発表した。
⇒【資料】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=720763
新基準では、全体的にどの項目も従来の基準値より甘く設定。なかでも、LDLコレステロールについては、従来より上限値がかなり高くなったのである。
これに日本動脈硬化学会などが反発し、大論争に発展している。
「人間ドック学会は小さな学会で、医療業界において大きな力を持っているわけではない。そのため、新基準値について多くの医療機関や医師、製薬会社が反発することは予想されたが、これほど大きなものになるとは思っていなかった。循環器系は医療業界にとってドル箱。例えば、降圧剤などが従来より高く設定された新基準値により、薬の処方が必要な患者が減れば、病院も製薬会社も利益を出せなくなる。だから反発が強い」(近畿大学医学部講師の榎木英介氏)
製薬会社などの「利権」が絡み、設定されていた従来の基準値。だが、「“新基準値なら自分はセーフ”だと安心してはいけません。検査を重ね、そのうえで患者は総合的に判断する必要がある」と榎木氏は警告する。
一方、基準値の良しあし以前に、そもそも「LDLコレステロールは有害ではない」との主張もある。富山大学名誉教授の浜崎智仁氏がこう話す。
「LDLコレステロールが死亡リスクを高めるとする信頼に足る研究結果はなく、むしろ総死亡率から見れば問題がないことを示す疫学調査が複数行われている。例えば、下記のグラフのように茨城県で40~79歳の男女計9万人以上を約10年追跡調査した研究では、LDLコレステロール値80mg/デシリットル未満の人の死亡リスクを1とした場合、120~139mg/デシリットルの人の死亡リスクは男女ともに0.7程度と低くなったのです。ほかにも、LDLコレステロール値が高い人ほど、肺炎やインフルエンザ、各種のがんにかかりにくいとのデータもあります。そもそもコレステロールを摂り過ぎると血液中のコレステロール値が高くなるというのもウソ。コレステロールの7割は体内で合成され、摂取量の増加で体内のコレステロール合成量は抑制されます」
⇒【グラフ】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=720768
「コレステロール=悪」神話がいまだに根強い原因もまた「カネになるから」(浜崎氏)だという。コレステロール値を下げる薬「スタチン」だけで、日本では年間2500億円も販売されている。
【榎木英介氏】
医学博士。近畿大学医学部講師。病理専門医だが、医療を含む科学技術業界の実情に精通。近著に『嘘と絶望の生命科学』(文藝春秋)がある
【浜崎智仁氏】
医学博士。富山大学名誉教授。富山城南温泉第二病院勤務。近著に『コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる』(講談社)
― 実は根拠のない健康常識のウソを暴く!【1】 ―
ハッシュタグ