夏野剛が語る「ソニーにiPodがつくれなかった理由」
ウェアラブルの未来を考える「Wearable Tech Expo in Tokyo 2015(ウェアラブルテック)」が7日と8日、東京ビッグサイトTFTホールで開催された。
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2020年東京五輪の開催へ向けて課題は山積みだ。そのひとつとして、スポーツとテクノロジーを融合した「日本らしさ」の発信が求められている。「“ウェアラブル×IoT”で日本は何を発信するのか」と題した講演には、慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏、ネットイヤーグループの石黒不二代氏、五輪組織委の舘剛司氏、室伏広治氏らが登壇。ここでは、歯に衣着せぬ“夏野節”の一部を紹介する。
――WTEの初開催から1年半が経ち、我々を取り巻く環境はどう変化したのか。
夏野剛「人間のカラダにつけるものはウェアラブル、つけないものはIoTと言われています。1年半前はいろんなものが出始めたときで、日本はインターネットやモバイルの環境が整っていて、テクノロジーもほとんど揃っていてものすごいチャンスがあったんですが、1年半で一巡して、日本はチャンスを逃しました」
――なぜ日本はチャンスを逃してしまったのか。
「Apple Watchは僕も発売当初から身につけていて、ほとんど何の価値もないことがわかりました。でも、これをなぜセイコーなどの日本企業が出さないのか。ヘルスセンサー系も日本のプレイヤーはほとんどいない。ものをつくることはできるけれど、サービスがつくれないんですね。インターフェースも悪い。僕はテスラの車に乗っていますけど、日本の自動車メーカーは周回遅れ以上で、新たなUI、UXが車に乗って来たという捉え方を未だに自動車産業はしていないし、日本はこのチャンスも逃した。(DeNAの自動車も)まぁ、ダメですね」
――日本はITと自動車の分野で世界から遅れをとってしまったと。
「だから、違うところに行くしかない。違うところにはまだチャンスがあって、例えばスポーツ界のIT化は、スポーツ界にテクノロジーをどうやって入れていくのかなんてことを、日本からガンガン発信していくことはできる。(ITや自動車ではなく)違うところで勝負する時代になっているかなと思います」
――夏野さんは日本のスポーツ界をどう見ているのか。
「日本のスポーツ界に期待しているのは、昔の活躍していた選手の業績をはるかに上回る結果を、ゆとり世代が出していること。どの競技でも記録が全然違うんですよ。サッカーの一次リーグを通過できなかったと偉そうに解説しているのは、ドーハの悲劇で予選落ちした連中ですからね。今の20代は先輩方の実力とは比較にならないレベルで活躍している。本田圭祐さん然り、新しい動きがいろいろあるのは期待しています。オヤジは邪魔しないことですね、早く去れと」
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話題はビッグデータに。五輪組織委の舘剛司氏は「アスリート個人にとっても強くなるために分析しなきゃいけないデータ量がどんどん増加していて、そのギャップを埋めるために最近は『スポーツアナリスト』が注目を浴びている。彼らはスポーツ界におけるデータサイエンティストです。日本ではまだまだこの人材が不足していて、トレーナーやコーチが兼務しているのが実態」と話す。
実際に全日本女子バレーボールの眞鍋政義監督は、試合中もタブレットを片手にアナリストの情報を駆使して戦略を練ることでも注目を集めた。
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――「スポーツアナリスト」はスポーツ出身者でないといけないのか。
「ただね、実際はレベルが低いんですよ。僕はJリーグのアドバイザーになったんですけど、専門家を連れてきたほうがいいに決まってて、なんでそこでサッカー出身者にこだわるのか。これは日本のスポーツ界を悪くしている。スポーツ出身者がいてもいいけど、見る専門の人間はオタク的なアナライズをしますから。クラシック音楽では、必ずしもプレイヤーがいい聴き手とはかぎらない。
ここが日本の最大の壁で、メーカーはメーカー出身者のみ。ソニーにiPodがつくれなかった理由は簡単ですよ。当時の経営者にネットがわかる人が一人もいなかったから。今もいないけど、30年も同じ釜の飯の人だけでやってたらそりゃ無理ですよ。一様性、純粋性だけで組織を作るからおかしくなる。ここを改めることがすべての産業にとって大事で、いろいろな人を受け入れないといけない」
この発言を受け、ネットイヤーグループの石黒不二代氏はこう話す。
「私はシリコンバレーの経験からひとつだけ思うのは、違う知識の人が集まったらいい会社はできるんですけど、シリコンバレーのものすごくいい会社は、すごいエンジニアがトップに立ってる会社なんですよ。インテル然り、グーグル然り。エンジニアでないとわからない専門知識が高いもの、スポーツ界にもそうしたスーパースターがいて、周りが助けられたらいいんじゃないかと思います」
<取材・文・撮影/北村篤裕>
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