カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第5講・ケインズも勧めた株式投資」

ケインズ

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 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか?私 たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

シティからウォール街へ


 第1次世界大戦後、アメリカは世界経済の覇権を握ります。アメリカは黄金の20年代と呼ばれる繁栄の時代を迎え、1924年から株式市場の投機熱が本格化し、5年間でニューヨーク・ダウ平均株価が5倍に跳ね上がりました。1929年9月にダウ平均株価は最高値の386.1ドルを記録します。

 この急激な株価の上昇率は1950年代後半の戦後の高度経済成長期、1990年代のITバブルに匹敵するものです。

 大戦中、アメリカは国土が戦場にならず、生産が安定し、戦争の特需によって、輸出を急増させました。戦後、豊富な資金を背景に設備投資が進み、自動車、ラジオなどの家電製品を大量生産するための技術革新が起こります。

 アメリカは、大戦で国土が荒廃したヨーロッパ諸国と敗戦国ドイツの復興を支援し、ヨーロッパに対するアメリカ債権を回収しました。回収された債権は、ウォール街の金融市場に流れ込み、株価を高騰させていきます。1920年代、国際金融の中心はロンドンのシティからニューヨークのウォール街に移ります。

株本のベストセラー

 
 当時、多くの株式投資関連本がベストセラーとなり、株ブームを巻き起こしました。その代表的なものが、1924年に出版された、投資家エドガー・ローレンス・スミスの著作『長期投資としての普通株(Common Stocks as Long-Term Investments)』です。

 当時の人々の間では、株式投資に関わる人間はまともではないという考え方がありました。投資(Investment)と投機(Speculation)とは違うもので、投資と呼べるものは債券投資のみで、株式投資は投機、つまり博打である、とされました。

 エドガー・スミスは、株式投資が博打ではなく、健全な投資対象であることをそのタイトルに込めました。この本では、株式の長期的な値上がりの可能性が、物価の上昇などの統計的な根拠とともに説明されています。ケインズもこの本を読み、株式投資の有益性を認めたと言われています。

ケインズが説く投資

 
 ケインズは株式投資について、短期的な相場の上げ下げに一喜一憂するのではなく、長期的な視野でやらなければならないと述べています。また、ケインズは、投資は美人コンテストの入賞者当てゲームのようなものだ、とも述べています。自分の女性の好みとは別に、参加者の多くがどの女性を美人と思うかを客観的に予測する。つまり、これは、投資でも同じで、どんな心理状態が市場を支配しているかを客観的に予測することが重要だ、とケインズは説明しています。

 ケインズは勤め先のケンブリッジ大学の基金の運用を1921年から46年まで、任されていました。この基金の保有株の内容、詳細な売買、運用成績などの記録が残っており、それによると、年平均15.97%の利益を出していました。

 投資家ウォーレン・バフェットの師で『賢明なる投資家』の著者ベンジャミン・グレアムがウォール街に投資会社を作り、活躍しはじめるのも、この頃です。

アメリカで膨らむバブル


 しかし、1920年代末、アメリカは株価やモノの値段だけが異常に先行して拡大するバブル経済に陥ります。株価や不動産の価格が高騰する一方で、需要は停滞、生産過剰で、在庫が積み上がっていました。また、ヨーロッパ諸国が高関税政策に傾斜し、国際貿易が縮小する中、アメリカの輸出も頭打ち状態でした。

 農業部門でも、戦争中からの増産によって農産物の供給が急増し、やはり生産過剰に陥り、農産物価格が下落しました。
 次回は暗黒の木曜日と呼ばれるウォール街の株価大暴落について、見ていきます。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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