国立の歴博が、入場料収入をアップさせる秘訣(6)――原始・古代のリニューアルに期待する
歴博の優れた展示「百姓一揆の作法」
歴博の展示内容についていくつか指摘してきたが、すべてが問題というわけではない。当然のことだが、優れた展示もある。 例えば、第3展示室(近世)の「百姓一揆の作法」だ。解説パネルには、 「近世の百姓一揆は、近代につくられた『竹槍と蓆旗(むしろばた)』という暴力的で無秩序なイメージをもたれることが多いが、実際には(中略)ある共通の作法にのっとっている。寄合をもち、要求内容や行動上の規律などについて相談しているのである」 と記され、百姓一揆の作法が紹介されている。ここで重要な点は、「近代につくられた暴力的で無秩序なイメージ」を、実証主義に基づく歴史研究により覆したことである。 ではなぜ、百姓一揆に暴力的で無秩序なイメージが戦後の歴史教育にはびこったのかという点である。 それはまず、明治以降の「薩長史観」というものがある。明治維新によって江戸の幕藩体制(江戸時代)は終わりを告げ、明治新政府によって新しい政治が行われた。新政府にとっては、江戸時代が後進的な時代であった方が、自らの正統性を主張しやすくなるので、新政府の中枢を占めた薩摩・長州出身者の側に立った薩長史観で歴史が分析され、江戸時代が貧困で一揆が多発したというように否定的に捉えられるようになった。 さらに、戦後になってはマルクス主義史観の流行によって、農民である人民が代官や領主に反抗するという視点に立ち、一揆が捉えられるようになった。 しかし、近年の実証主義に基づく研究成果により、一揆の実態が明らかになってきて、歴博もそれに基づき展示している。ちなみに、育鵬社版の中学校歴史教科書も、上の写真のように誌面構成して、一揆の正しい実像を中学生に伝えている。 それ以外にも、歴博の優れた展示は多いが、ここでは割愛する。 要は、戦前の薩長史観や、皇国史観(天皇を主軸に据えた歴史の見方)、戦後の階級闘争に重きを置くマルクス主義史観を排し、歴史的事実をバランスよく展示することが大事になる(これについては、本サイトの9月1日に掲載した「『日本という物語』をどう伝えるか」第6回目を参照いただきたい)。 その際に、対外的な記述が必要な場合は、東アジアのみを視野に入れるのではなく、世界史的な視野で展示することが必要だろう。最も人気の高い第1展示室(原始・古代)が閉室中
さて、歴博が入場料収入をアップさせる手っ取り早い方法は、日本の縄文時代や古代史に関する人々の関心が高いため、第1展示室(原始・古代)を充実させることであろう。 しかし、この第1展示室は、本年の平成28年5月~平成31年春(予定)までの3年間、リニューアルのため閉室中である。歴博は、平成26年3月には、自らが作成した展示趣旨並びに展示構成案を外部業者に説明し、具体的な展示プランの公募を行っている。歴博自らが作成した展示構成案も、少なくとも2年以上はかけて検討したはずだから、その時期から含めると7年以上となり、余りに悠長である。 「親方日の丸」という言葉がある。この言葉は、親方は日の丸、すなわち国なので倒産する心配がないので経営が安易になりやすい点を皮肉っている意味だ。歴博は、平成16年度以降に国の行政組織の一部から独立した法人格となっており、国からの補助金(税金)が交付されるが、できるだけ自己収入を増やすことも求められている。しかしこの悠長さでは、親方日の丸の体質から抜け出せていないのではないかと言いたくなってしまう。 しかし、平成31年春のリニューアルオープンとしている以上、その内容充実に期待するしかない。 以前に紹介した新潟県立歴史博物館の「縄文の四季」は、ライトの照明の強弱で日中から夕暮れ時の様子も再現でき、夕暮れには虫の鳴き声が聞こえるような、さまざまな工夫を施している。 これは、縄文時代の豊かさを見る人に感じてほしいという展示者の学問的研究成果と情熱の賜物であり、これが見る人に知的な関心と感動を与える。「親方日の丸」と「親方赤旗」からの脱却を
ところで、「親方日の丸」の言葉に倣うならば、歴史学の世界には、「親方赤旗」の体質は無いだろうか。共産党系の歴史学者の視点に立っていれば、文句も言われずに御身安泰という体質だ。 ○○史観というバイアスや色眼鏡を排し、実証主義の研究成果である歴史の事実に基づき、見る人に歴史の面白さを伝える第1展示室のリニューアルオープンを、2年半ほど先になるが心より期待したい。 その成功が、第2展示室から第6展示室の展示姿勢に刺激を与え改善されて行けば、リピーターが増え、入場料収入が増え、その資金でさらに展示内容を改善できるという好循環になるはずだ。 そうなれば、家族を連れ、子供たちに歴史を語りながら展示を見ることができる。また歴博がある佐倉市は成田空港にも近く、降り立つ外国人にも、これがわが国の歴史と文化のエッセンスを紹介している「ナショナルミュージアム」だと、恥ずかしくなく紹介できる施設となる。(了) (文責=育鵬社編集部M)ハッシュタグ
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