「生き抜く覚悟」と「平和の尊さ」を学べる平和祈念展示資料館(2)――当時の雰囲気が分かる展示の工夫

受付近くの「プロローグ」と題された体験者の証言と写真で構成されたイメージ空間(写真提供=同館)

 この資料館の兵士コーナーであるが、もともとは「恩給欠格者コーナー」であったという。恩給欠格者とは、先の大戦において軍人・軍属としての在職期間が短く規定に達していなかったため、恩給や年金の受給対象にならなかった人々を指す。  政府は昭和42(1967)年頃には、戦争被害にかかわる給付・補償などの戦後処理は一通り終わったとの立場であった。  しかし、この恩給欠格者、また戦後強制抑留者、さらに引揚者が残してきた在外財産という三つの問題に関して、「関係者の心情には深く心を致し」という背景のもと、昭和63(1988)年に平和祈念事業特別基金法が成立して特別基金が設立され、上記の三つの関係者の労苦を慰藉(いしゃ=慰めいたわること)する事業が行われることになった。  具体的には、関係者への書状・銀杯の贈呈、後には、別の法律に基づく戦後強制抑留者への特別給付金の支給などである。  また、この慰藉事業の一環として、平成12(2000)年にこの資料館が開館した(当初は新宿住友ビルの別の階)という経緯である。  この特別基金は、平成25年に歴史的役割を終えて解散したが、この資料館は所轄官庁である総務省の委託事業として、戦争の労苦を次世代に伝えるべく引き続き展示を行っており、戦後70年に当たる平成27(2015)年に二度目のリニューアルをし、展示内容を充実させたという。ちなみに、一度目のリニューアルは、戦後60年の平成17年とのことだ。

「今自分が生存している……分からないのは明日の命である」

 それでは、この資料館の常設展示を順次、見ていこう。受付を通ると、プロローグと記された一角がある。 「兵士」「抑留」「引揚げ」という大きな文字と、関連する写真や言葉がパネルに印刷されている。見学者はこの一角で、この三つのキーワードを頭に入れることができる。  さらに、兵士と記されたパネルには、例えば「……ただ分かっているのは今自分が生存していることだけで、分からないのは明日の命である」という言葉が記され、当時の兵士の置かれた立場が、端的に表現されている。  見学者はこうした前提を理解して、1番目の兵士コーナーに向かうことができる。これは、博物館の展示において大事なポイントである。当時の雰囲気を感じ取ることによって、その後の展示品の意味が分かり、興味を持って見学できる。これが分からないと、展示品はただの遺物と化してしまう。  この資料館は、こうした展示手法においてもよく工夫している。(続く) (取材・文=育鵬社編集部M)
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