カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座 「第26講・イギリスの『収益=収奪』のシステム」
イギリスの貿易収支は常に赤字
産業革命はイギリスに富をもたらしました。しかし、産業革命をコピーした欧米や日本にも、富はもたらされました。イギリスが産業技術において優位であったのは18世紀後半の僅かな期間だけであって、すぐに他国にマネをされてしまいます。 イギリスは工業製品の生産量を飛躍的に増大させますが、他国もこれに追随し、各国が安売りのダンピング競争をおこなった結果、イギリスの利益は相対的に抑えられました。 産業革命以降、イギリスは工業製品を大量に輸出し、利益を得たとする俗説がありますが、図が示すように、イギリスの貿易収支は常に赤字であり、その赤字額は年々、増え続けています。イギリスは貿易外収支(海運業、サービス業、海外金融業、海外投資収益)で稼ぎ、貿易収支の赤字を補っていました。覇権と犯罪は表裏一体
以上の点から、イギリスを覇権国家に押し上げた主要な原因は産業革命による生産力拡大でないことは明らかです。イギリスが他国よりも優位に立つことができた根本的な原因は、他国がマネのできない独自の収益構造を形成することができたからです。その方法はかつてのスペイン、オランダにさえなかった悪辣なものでした。 産業革命期の技術開発に見られるようなイギリス人の忍耐力と真面目さがイギリスを強くしたことは認めますが、それだけでは到底、世界の覇権を握ることはできません。そもそも、覇権というものはその本質において、犯罪的な収奪によって成立するものです。 ウォーラーステインは覇権国家の条件を「圧倒的な生産力」、「圧倒的な流通力」、「圧倒的な金融力」と言いましたが、これら三つの条件に加え、「圧倒的な詐術力」、「圧倒的な強奪力」の二つの条件を加えなければなりません。 イギリスの悪辣なる収奪システムの拡大には三つの段階があります。第1段階は16世紀の私掠船の略奪、第2段階は17~18世紀の奴隷三角貿易、第3段階は19世紀のアヘン三角貿易です。 第1段階の私掠船とは、国王の特許状を得て、外国船の捕獲にあたった民間船で、国王が許可し、国王や貴族が資金援助した海賊船でした。 イギリスの私掠船は、スペインやポルトガルの貿易船を繰り返し襲い、積み荷を略奪しました。積み荷を売却した利益は国王や貴族などの出資者に還元され、イギリスの初期資本の蓄積に寄与します。この海賊私掠船のスポンサーリストには、エリザベス女王の名前も掲載されていました。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
『世界史は99%、経済でつくられる』 歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。 |
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