“大人の引きこもり”からの救済①

ドア

引きこもり救済の現場

 神奈川県の某所、3年間引きこもっているという男性の“自宅支援”の現場に同行した。自宅支援とは、『「大人の引きこもり」を救え!』の著者、廣岡政幸氏が行っている「引きこもりからの救済」活動だ。  2DKのアパートに母親と暮らす20代の男性は、こちらが予想していたよりもすんなりと自室から出てきてくれた。彼には廣岡氏の訪問は知らせていない。母親と廣岡氏がここに至るまで、何度も面接、話し合いを重ね、この日を迎えていた。男性はむしろこの状況をすんなり受け入れているようにも見えた。  廣岡氏は2時間ほど男性と話をし、その後、男性は廣岡氏が運営しているフリースクールに入塾することになった。彼は日常生活に必要な荷物をまとめ、そのまま寮に向かう。  母親は息子を見送りながら、「明日から仕事終わりに息子のお弁当を買って帰らなくていいんですね。一人になったら何をして過ごしたらいいでしょうか」と言う。息子の引きこもりに悩んでいたはずなのに、いざ家を出ていくとなると、寂しさが押し寄せてくる。  2週間後、フリースクールで会った男性は、スッキリと散髪し、見違えるようだった。「フリースクールでの生活はどうですか?」と尋ねると、「あまり楽しくはないですね」と答えてくれた。  入塾して10日目くらいまでは環境に慣れない人が多いので、本音だろう。でも、自宅に引きこもったままでは、何も始まらないことを、彼自身が一番感じていたに違いない。だから、ここに来たはずだ。

本当の自立を目指して

 廣岡氏の活動は引きこもった人を部屋から出す、だけではもちろんない。約3~6カ月のフリースクールでの集団生活を経て、就職、就学支援も行っている。先の入塾した男性はまだ20代前半で、引きこもって3年、とまだ期間が短いので、寮の生活にもすぐ慣れて、次の目標を見つけ、“自立”できる日が来るだろう。  そんなに広くないアパートで、「一緒に暮らしながら、この3年間口をきいていなかったんです」と母親は言っていた。アパートを出ていく時、彼は母親に「お世話になりました。行ってきます」と声をかけた。「家を出る時は親にひと言お礼を言おう」と廣岡氏が必ずアドバイスをする。たったひと言で、親も子も救われる。 (文/『「大人の引きこもり」を救え!』取材班)
「大人の引きこもり」を救え!

引きこもってしまった人を社会復帰させる支援を行っているワンステップスクール校長による活動記録。

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