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安倍首相の改憲発言について議論する前に押さえておきたい「憲法と自衛隊」の基礎知識
2017年06月28日
安倍首相の改憲発言について議論する前に押さえておきたい「憲法と自衛隊」の基礎知識
田村重信
<文・自由民主党政務調査会審議役・田村重信>
自衛隊と憲法について論じる時の大事なポイント
憲法改正について、安倍首相が9条1、2項を維持して「自衛隊を明記」する案について発言後、改憲議論が加速しています。これについて、与野党の政治家や憲法学者、評論家、マスコミが賛否を述べています。議論することは悪いことではありません。安倍首相はいい問題提起をされたと思います。
平成25年度自衛隊記念日観閲式・観閲部隊(空挺部隊)(出典:陸上自衛隊HP)
私は、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わってきましたが、自衛隊と憲法の関係について議論する上で大事なポイントがあります。私は慶應義塾大学大学院法学研究科で安全保障講座の講師も15年間務め、日本の大学院生だけでなく、中国・韓国などからの留学生にも教えていました。そこでは、最初にそのポイントを学生たちに伝えていました。 「主義信条や考え方の違いはあるだろうが、好き嫌いを別にして政府の公式な考え方、解釈がどういうものなのかをきちんと押さえることが大事だ。それを勉強しないで、俺はこう思うと言ったって、それは学問ではない。まずそれぞれの事実関係と経緯を押さえておくことが必要だ」 特に憲法と自衛隊の関係については、歴史的経緯も含め、まず政府の考え方をきちんと押さえた上で、多方面からの議論をしましょうと心がけておりました。 中国や韓国からの留学生らも、「自分の本国で聞いている話と、田村先生がおっしゃっている話、違うよ。でも、田村先生のお話が正しいね」という具合に、だんだんと理解してくれるようになりました。事実を正しく伝えることがいかに大事なことなのか、私も教えられました。
自衛隊は軍隊か?
まずは自衛隊の位置付けですが、これすら国民に正しく理解されていません。日本の大学には安全保障の講座がほとんどなく、良質な専門書も少ない。だから政治家や新聞記者、テレビのコメンテーターなどもよく間違えています。 自衛隊は軍隊かどうかという疑問を投げかけると、回答者の半数くらいは「軍隊」と答えます。しかしこれは間違いです。
自衛隊は軍隊ではありません。
憲法と自衛権の関係について考える基本は、憲法第9条がいかに解釈されているかを理解することです。日本国憲法は第9条に、「戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定」を置いている。つまり、憲法第9条第2項によれば、我が国は「陸海空軍その他の戦力」を持つことができないとされているわけです。 政府も、「自衛隊が軍隊であるか否かは、軍隊の定義如何の問題」としながらも、「自衛隊は、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課されており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものであって、憲法第9条第2項で保持することが禁止されている『陸海空軍その他の戦力』には当たらない」としています。
自衛隊は「必要最小限度の実力組織」
では、自衛隊は一体何なのか。何に基づいて存在する組織なのか。このことに関する政府解釈は以下になります。
憲法第9条第1項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められているところであると解している。 〈森清議員提出質問主意書に対する答弁書、昭和55(1980)年12月5日〉
第9条はもとより、「我が国が独立国である以上、この規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではない」というのが政府の見解です。そして、「我が国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上禁止されているものではない」としています。 したがって、自衛のためには、「必要最小限度の武力を行使することは認められている」ということになります。
独立国には自衛権がある
そうした議論の前提として、そもそも日本は独立国である――サンフランシスコ講和条約の発効によって、1952年に独立を回復した――という厳然たる事実があるわけです。
【 サンフランシスコ講和条約第5条】 連合国としては、日本国が主権国として国際連合憲章第51条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有すること及び日本国が集団的安全保障取極を自発的に締結することができることを承認する。
この事実を踏まえると、日本は独立国で固有の自衛権を持っている、つまり自分の国を守るという権利はあるのだという理路に行き着きます。だから、自分の国を守るための必要最小限度の実力組織を持つことは、憲法に何ら反してはいない、その組織が自衛隊です、というのが先の政府解釈です。
キーワードは「必要最小限度」
重要なのは「必要最小限度」という言葉です。これがキーワードと言っていいでしょう。先述の森清議員提出質問主意書に対する政府の答弁書では憲法第9条第2項について、 「憲法第9条第2項は、『戦力』の保持を禁止しているが、このことは、自衛のための必要最小限度の実力を保持することまで禁止する趣旨のものではなく、これを超える実力を保持することを禁止する趣旨のものであると解している。」 としており、これは「必要最小限度」以下の実力であれば保有が認められ、それを超えると憲法違反となるということを意味しているのです。 つまり、自衛隊は我が国を防衛するための「必要最小限度」の実力組織であるから、憲法に違反しないというロジックなのですね。ただし、必要最小限度という範囲を超えると、憲法第9条第2項で禁止する戦力になってしまいます。 「政府は従来から、自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、憲法第9条第2項によって禁じられていないと解しているが、性能上専ら他国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられる兵器については、これを保持することが許されないと考えており、たとえば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母みたいなものは保有することは許されない」と解されています。
現実を学び、それを踏まえて活発な議論を
その他にも、自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力行使を超える行為はことごとく禁じられており、その中には「いわゆる海外派兵(武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること)の禁止」などがあります。 ですから、政府解釈も自衛隊が通常の観念で考えられる「軍隊になる」ことを当然ながら認めてはいません。 この議論は古くから行われてきたものですが、佐藤栄作首相が昭和42(1967)年3月31日に「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁して以来、定着してきたものと言えます。 なんかややこしいですけれど、これが政府の解釈なのです。 でも、決して詭弁などではない。いうなれば、「必要最小限度」という言葉によって、時の政府はいわく言い難い「生の現実」を、何とか表現しようとしたのではないでしょうか。 私に言わせれば、自分の国と自国民の命と財産を守るという議論において、観念論は不要です。あくまで現実に即し、現実に立脚した考え方で国と国民の安全を確保しなければなりません。その意味で政府解釈は、自国にとって常に有形無形の脅威が存在するという、リアルな現実を反映したものになっている。そう評価していいでしょう。 誤解しないでもらいたいのですが、私は理想を語ることを否定しているわけではありません。ただ、現前の風景を直視することなく、単に「俺はこう思う」と言ってもしょうがないでしょう。現実を学び、そのことをきちんと踏まえて議論する必要があるということです。
【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『
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田村重信
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