世界文化遺産から読み解く世界史【第11回:モン・サン・ミシェルVS厳島神社(続)】
潮の干満で姿を変える共通点
厳島神社は満潮のときは島となり、干潮のときは地続きとなるような場所に建てられています。潮が引くと鳥居のそばまで歩いていくことができます。このように潮の干満によって姿が変わるという点はモン・サン・ミシェルも同様で、干潮時には島までの道が出現します。 厳島神社は干潮のとき以外は海水に床柱が浸っているため、台風や高波と満潮が重なると、海水が廊下の上にまで達することもあります。海の状態によっては危険な状態にもなりうるというのは、モン・サン・ミシェルも同じでしょう。これも両者の類似性として挙げてもいいように思います。 厳島神社の沖合200メートルの海上に建つ朱塗りの大鳥居は、高さ16メートルあります。4本の控え柱を持つ両部鳥居の形式をとっています。楠木の自然木が使われていて、モン・サン・ミシェルの石造りの城と比べると華奢に見えますが、木というものが本来の建築の元であることを考えると、それを維持している厳島神社の美しさに私はより心を惹かれます。 私は両方を何度も訪ねたことがありますが、海と調和するその姿を見ると、これらの建物が自然との調和を図っているように感じます。むろんモン・サン・ミシェルは石造りで、そこには自然を支配しようとするヨーロッパの伝統的な感覚がありますが、島の城壁の外には木が繁っていて、決して単なる人工の島ではありません。自然の中に生きる建築物
海と樹木、そして建物が遠い地平線の先で孤立するかのように立っている姿は、現代の目から見ると、自然の中に生きた建築となっていることに注目したいと思います。 ゴシック建築というのは、もともと樹木を真似しています。尖塔にしても柱廊にしても、木が空に向かって伸びる様をイメージしています。それを考えると、石の建築でさえも、もとは木であるという見方ができるわけです。そういう意味でも、厳島神社の木の建築と重ね合わせて考えることができるのです。 さらにいえば、モン・サン・ミシェルは都であるパリから離れた場所に位置しています。厳島神社も、奈良あるいは平家の都であった福原(現在の神戸市)から離れたところにあります。このある種の都からの隔絶性も類似点の一つとして挙げてもいいでしょう。 そういう様々な類似点を考えると、日本人にとって厳島神社は、海と調和した建築として見るべき価値があるのではないかと思われます。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』ほか多数。
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