世界文化遺産から読み解く世界史【第13回:イスラム教の影響が残る宮殿――アルハンブラ宮殿】

アルハンブラ宮殿(加工)

アルハンブラ宮殿

宗教対立の歴史をとどめる世界文化遺産

 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の対立の歴史が、地中海の歴史にもなっています。十字軍はキリスト教が起こした反イスラムの動きです。  この中で、一番信者の少ない宗教がユダヤ教ですが、ユダヤ民族は、その不幸な歴史のために、世界を流浪する民族となってしまい、いろいろなところに移り住んでは、問題を生じさせることになりました。  この三つ巴の対立については、スペインの中にある世界文化遺産となっているイスラム教の建築物を見るとよくわかります。  例えば、グラナダにあるアルハンブラ宮殿です。これは最古の部分が、赤褐色の石でつくられていたことから、「アルハンブラ」(赤い城)と呼ばれました。グラナダは、アンダルシア地方のネバダ山脈北西麓に位置しています。この町の起源はローマ時代にさかのぼるのですが、発展を遂げたのはイスラム教の支配を受けていた時代です。  スペインというと、キリスト教の影響下にあったと思いがちですが、実は、長らくイスラム勢力の影響下にあったのです。それが、13世紀前半に、キリスト教勢力によるレコンキスタと呼ばれる国土回復運動が起こって、イスラム勢力はしだいにイベリア半島の南端に追い詰められていったのです。  1236年にカスティーリャ王のフェルナンド三世は、コルドバを占領した後、グラナダ王国を除くスペイン全土を手中に治めましたが、イベリア半島最後のイスラム王朝となったグラナダ王国(ナスル朝)は、1230年に半島に残存するイスラム教徒の拠点としてグラナダ王国を起こしてから260年間、その繁栄を続けました。  しかし、1492年、とうとうグラナダもキリスト教勢力の支配下となったのです。

圧倒的な美しさと人間性の欠如

 アルハンブラ宮殿は、世界文化遺産の雄といってもいいほどの美しさを持っています。その中心には、コマーレス塔など王が公務を行うコマーレス宮殿と、ライオンの中庭や、「二姉妹の間」などがあるハーレム、ライオン宮殿があります。  この美しさはいったい何によるのかというと、装飾によるのです。青や白のタイルによる壁、化粧漆喰のアラベスク模様、それから大理石の床や泉水、こういうものが天井の鍾乳石飾りなどと一体となって、優雅なイスラム装飾芸術を生み出しているのです。  私はここでセゴビアのギターを聞いたことがあります。学会がここで開かれたときのことです。  しかし、欠けているのはやはり人間像なのです。ルネサンスの庭園と比べると、人間像がないということの欠如感があるのです。独特の美しさに圧倒されるのですが、人間性が欠けているのです。  文化の違いが美術観を変えているのですが、グラナダを見ると、そういうことが実感として感じられます。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』ほか多数。
日本の美仏 50選

穏やかな、あるいは荒々しい神秘的な仏像の数々。なぜ、見る者の心を落ち着かせるのか。日本全国の最高水準の仏像を一挙公開!

テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート
おすすめ記事