天皇陛下の高麗神社参拝は、マスコミの牽強付会か?

高麗神社

高麗神社

天皇の私的旅行と報道ステーション

 天皇皇后両陛下の私的小旅行というニュースが9月20日に報じられれた。それによると、高句麗から来た渡来人(王族)を祭っている埼玉県日高市の高麗神社に天皇皇后両陛下が参拝されたというものだった。  このニュースに関して、例えば、報道ステーションは、2002年「日韓ワールドカップ」をはじめ、日韓交流が盛んだった頃の映像を交え、現在の冷え込んだ日韓関係と対比させるようなつくりをしていた。  同番組の日頃の報道姿勢を考えると、このニュースは、次のようなメッセージを視聴者に伝えているような印象を受けた。 「いまも日韓関係が冷え込んだままで、ソウルでは慰安婦像を載せたバスが走るようになった。加えて徴用工問題も浮上してきている。  本来であれば、北朝鮮の核ミサイル問題に対して、日韓は緊密に連携する必要があるが、日本側のかたくなな姿勢で、両国関係が停滞している。  だから、天皇陛下は、高麗神社を訪問することで、日韓関係の好転を期待した。安倍自民党と違い、天皇陛下は日韓友好を心から願っている」  個人的な印象ではあるが、このニュースからは「安倍政権で進まない日韓友好促進を望む天皇」とのメッセージがことさら強調されているようにも感じた。

産経新聞の記事

 一方、翌21日の産経新聞には天皇皇后両陛下が埼玉県の巾着田曼珠沙華公園を視察され、公園を散策されたという記事が写真とともに小さく載っていたが、高麗神社を訪問した事実は載せていない。  両陛下は公園も散策されている。そうはいっても、高麗神社では宮司から由来などの話を聞いておられるので、ニュースとしての重要度はやはり高麗神社の参拝だろう。  日ごろ左派メディアの「報道しない自由」を批判する産経新聞だが、今回については、天皇陛下が高麗神社に立ち寄った事実を簡単であっても書くべきではなかったのかと思う。

天皇と政治

 一昨年の8月、ご自身の退位に関しての考えをお話しになった天皇陛下。その後、特例法は成立したが、法案の扱いを巡って、自民党と民進党は激しく対立した。  民進党は、一度限りの特例法で対応する自民党案が天皇陛下のご意向と違うと主張し、安倍首相を批判的に報道するマスコミもこうくり返した。「天皇陛下は安倍総理の姿勢を苦々しく思っている」等。  天皇は政治的発言をしない。天皇を政治利用しない。天皇を政治から切り離すために、日本国憲法では天皇の国事行為を規定しているが、天皇陛下は、さまざまな場面で政治的な思惑にさらされてしまう。  日本国憲法で「国民統合の象徴」となった天皇。だが、外国の事例を基にした伊藤博文が、すでに明治憲法の制定時に天皇を規定したと宗教学者の島田裕巳氏は述べている(『日本人の信仰』)。  同書で島田氏は、現在は以前に比べても天皇の公的行為の行動範囲が拡大しており、現天皇の振る舞いや考えには「仁」(他者に対しての慈しみや思いやり)があるのではと推察する。  天皇の行動範囲の拡大について、島田氏は「象徴にふさわしい行動を模索した結果」と肯定的に捉えている。そして、今上天皇の振る舞いこそは、伊藤博文が求めていた天皇像だと島田氏は述べる。  私的旅行でも「政治的」に取り上げられる天皇陛下。「皇族減少と皇位継承」の議論が決着しないなか、現天皇の「退位」を目前に控え、「天皇のあり方」を巡る議論も、まだまだ続くだろう。 (育鵬社編集部A)
日本人の信仰

日本人の多くが自らを「無宗教」だと考えているにもかかわらず、「墓参り」や「初詣」を始めとする宗教行動が盛んなのはなぜか? 人気宗教学者が日本人の「信仰のあり方」を、歴史的な側面を踏まえながら多角的に考察する。 日本人の宗教観がよくわかる本。

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