愛国のエコノミスト(4)――財務省が作り上げた財政破綻の論理

平成28年3月、首相官邸で開かれた国際金融経済分析会合。ポール・クルーグマン教授(ニューヨーク市立大学、手前右側)とアベノミクスに関する意見交換が行われた。(首相官邸HPより)

利益誘導型の政治家に対する防御壁

 地元の土建業者などの後援会長から不景気を訴えられた政治家は、財務省に補正予算を組んで公共投資を行えと要請する。  また、老人票を逃したくないため世界でも手厚い社会保障が手当てされてきたが、高齢化の進行で義務的経費が年々増加する。財務省は、利益誘導型の政治家に辟易しているのだが無下に断れない。財源がないというと国債でまかなえとなる。その積み重ねが、今日の財政赤字を生んでいる。  財務省は、不景気時の金融政策と財政政策のセットで行うリフレ政策が景気回復には重要だったと、いまでは不明を恥じているかもしれないが、これ以上財政赤字を増やしたくないとの強烈な使命感を持っているのだろう。  そこで、何としても利益誘導型の政治家の要求に対して防御壁を作らなければならない。それが日本のバランスシートの負債額だけを強調した財政破綻の論理を作り上げた。  その強烈な使命感は多とするのだが、執念が強すぎてあまりに硬直的である。あたかも「原発は絶対に安全である」と言い続けてきた「原発ムラ」の論理に近い。  バランス感覚を欠いた論理は、どこかで本末転倒となる。財政規律至上主義の論理も同様だ。  さて、高橋氏も認めているように、消費税は徴税逃れがしにくい「優れた」税である(前掲書89~90ページ)。  この消費税を比喩的に言えば、まさに投網を投げて一挙に魚(税)を確保する最も効率の良い税である。しかし、好景気という魚が豊富にいるときは良いとしても、デフレ時の魚が少ない時に一網打尽に捕獲してしまっては、魚という資源そのものが枯渇してしまう。  そのため、高橋氏はデフレ時の消費増税は不要であり、まずは景気を回復させ税収をアップさせるのが順番であると述べている。

財務省のシナリオ通り発言した経済学者たち

 では、安倍首相の消費税に対する認識はどうか。  民主党の第2次野田内閣時における民自公の合意を基に、2014年4月に、安倍内閣は消費税の税率を5%から8%に引き上げた。  当時、日本の経済学者・エコノミストの大半は財務省のシナリオ通りに発言し、消費増税によっても経済は悪くならないという予測を行い、その8%と15年10月からの10%という2回の消費増税が必要だという意見であった。  しかし、アベノミクスが実施されている最中の14年4月の消費増税は、大半の経済学者の見通しがまったく外れ景気が悪化した。そこで安倍内閣は、15年10月からの10%の再増税を17年4月からに延期した。  さらに、個人消費の低迷もあり、ノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン氏ら海外のリフレ派の学者の意見を聞き、増税を2019年10月からに再延期した。この舞台裏で活躍したのが高橋洋一氏らである。  好きか嫌いかは別にして、この安倍首相の消費増税再延期の決断は正しく、これにより今日の失業率の劇的な回復とデフレ脱却の目途が立ちつつある。(続く) (文責=育鵬社編集部M)
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