愛国のエコノミスト(5)――消費税の増収分を組み替えるという勝負手
幼児教育の無償化は未来への投資
さて、その安倍首相は9月25日夕方の衆議院解散に関する記者会見で、2019年10月からの消費増税10%の実施を公式に認め、増収分の約5兆円の使い道を組み替えると表明し、これを以って国民に信を問うというものである。 勝負手を打ったのである。安倍首相は、消費増税によって回復軌道に乗っている景気の腰が折れることは重々承知しながら、もう一歩先の日本の未来を見据えているのではないか。 まず、消費増税の増収分の組み替えについてである。これまでは5兆円の内、4兆円を借金の返済に充て、1兆円を医療・介護など社会保障の充実に活用する方針であった。これを安倍首相は、「使い道を思い切って変えたい」と述べ、財政規律の健全化は多少ずれるが借金の返済を2兆円にとどめ、幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減に2兆円を充てる組み替えを新たな方針としたのである。 この幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減は、高橋洋一氏がいち早く提唱したアイデアだが、前掲書『日本を救う最強の経済論』の中でも、未来への投資として「教育国債のすすめ」(161~163ページ)で描いた構図と軌を一にする。 高橋氏は、財源を国債の新規発行に求めたが、安倍首相は、消費増税分に求めただけの違いである。この未来への投資は、非常に意義深いと言える。北朝鮮に安定した政権を設置するには
次に北朝鮮情勢である。今年の年末から来年にかけて、何らかの有事が発生する可能性がある。問題は、その後の北朝鮮にいかに安定した政権を設置できるかであり、東アジアの安定のために日本にも相応の負担が求められる。 安倍首相は、9月25日の記者会見で次のように述べている。 「北朝鮮には勤勉な労働力があり、資源も豊富です。北朝鮮が正しい道を歩めば、経済を飛躍的に伸ばすこともできる」 その際に、霞が関のトップ省庁である財務省の協力なしには事は進まなくなる。2019年10月に予定通り消費税を10%にするとのメッセージが必要だったのではないか。 とはいえ、そこは円熟味と老獪さを増している安倍首相である。「リーマン・ショック級の緊縮状況が起きれば判断しなければならない」(9月26日、テレビ東京)と、再々延期を示唆することも忘れない。さぞかし、財務省は気をもんでいるだろう。小池百合子「希望の党」代表の勝負勘
こうしたことを踏まえての政権政党としての勝負手である。この勝負手は、なかなかに強烈である。 一方、安倍首相の記者会見と同じ日に、国政政党「希望の党」の立ち上げと代表就任を表明した小池百合子東京都知事の勝負勘は、相変わらず鋭い。 同日の日本経済新聞とのインタビューで、「政策の目玉は」と聞かれた小池知事は次のように答えている。 「実感の伴う景気回復を確保するまで消費増税は立ち止まる。さもなければまた景気の腰折れを招く」 「東京の特区で金融の強化などをやっている。関連でいくつかの都市開発が加計学園の問題(の影響)で『待ち』に入っていた。特区そのものは悪くない。(問題は)情報公開の仕方とか。結局しがらみなき政治をすることが改革を前進させ、そして国際的な競争力を支える」 小池知事の「景気の腰折れを招く」消費増税凍結の訴えは、鋭い。 大阪を中心とした日本維新の会、東京を中心とした希望の党は、ともに消費増税の凍結を訴え教育投資にも熱心だ。一方、自民党は消費増税の増税分の組み換えで迎え撃つ。この中で教育投資には熱心だが、国際情勢に腰が据わらない民進党はどうなるのか。 希望の党に民進党が合流すれば、選挙戦は一挙に加熱する。 日本の行く末は、10月10日告示、22日投開票の衆院選で明らかになる。(続く) (文責=育鵬社編集部M)
『日本を救う最強の経済論』 バブルの対策を誤り、その後の「失われた20年」を系統的に解き明かし、今後のわが国の成長戦略を描いた著者会心の書。 |
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