カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第37講・ジェノヴァ・システムの崩壊」
スペインの対外利払い
スペインは新大陸に進出し、メキシコのアステカ王国やペルーのインカ帝国を征服し、金銀財宝を奪います。 1519年、探検家マゼランが世界一周を試みます。マゼランは南アメリカ大陸南端の海峡を越え、太平洋に出て、フィリピンのセブ島に到達します。マゼランは現地の部族長に殺されましたが、その部下たちが世界一周を為し遂げ、1522年、スペインに帰還しました。 マゼラン一行の帰還者により、フィリピンの存在が知られ、スペインは海軍を派遣、これを征服します。カルロス1世の皇太子のフェリペの名に因み、フィリピンと名付けられました。 1556年、フェリペがスペイン国王フェリペ2世となり、スペイン王国の全盛期を迎えます。フェリペ2世は1571年、フィリピンにマニラを建設し、太平洋地域の拠点とします。 この時期、スペインはメキシコで銀山を発見し、獲得したメキシコ銀をフィリピンのマニラに持ち込み、そこで中国商人と取引をし、中国の貴重な陶磁器や絹織物と交換しました。マニラに銀を求める中国商人が殺到し、マニラはスペインと中国を繋ぐ中継貿易の拠点となっていたのです。 こうして、スペインは世界規模の交易を支配して、「太陽の沈まぬ国」と自称するに至ります。しかし、スペインもポルトガルと同じく、ジェノヴァの資本に支援され、利益の多くを利払いに充てていました。 スペインの国家収入の約7割が対外利払いに回されていたのです。ただ、スペインはポルトガルと異なり、強国であり、ジェノヴァの資本にだけ、依存していたわけではありません。 スペインはスペイン領ネーデルラント(ベルギー、オランダ)の中心都市アントワープを特区地域として開放していました。アントワープはイギリス、オランダ、フランス、ドイツを結ぶ中心に位置し、それらの国々の資金や物資が集まりやすく、地理的な優位性を持っていました。 アントワープでは、手形が盛んに発行され、それに関わる金融ビジネスも発展します。スペインはこのアントワープで起債し、資金を調達していました。 北ヨーロッパの金融センターとして、躍進するアントワープに対し、ジェノヴァは敵愾心を募らせます。しかし、スペインにとって、高い利払いを要求されるジェノヴァよりも、アントワープの方に魅力があったことは言うまでもありません。新たな金融センター、アントワープ
16世紀前半、経済特区アントワープには新しい世代、カルヴァン派新教徒たち(プロテスタント)が集まりました。宗教改革者カルヴァンは台頭するブルジョワ商工業者に向けて、従来のキリスト教教義とは異なる新しい教義を作ります。 従来の教義の価値観では、カネを貯め、利益を追求することは卑しいこととされていました。このような考え方に対し、カルヴァンは全ての職業は神から与えられたものであり、それに精励することで得られる利得は神からの恩恵であるとして、利益の追求を認めました。 カルヴァンは「営利蓄財の肯定」を唱え、ブルジョワ資本主義を宗教的な立場から擁護しました。近代資本主義が発展するとともに、ブルジョワ階級の銀行家や商工業者たちは富や利潤追求を肯定する教理解釈を必要としていました。 カルヴァンはこれに応え、ブルジョワの支持を獲得しました。カルヴァン派新教徒は経済特区アントワープで、金融、商工業、流通など様々な新しいビジネスを立ち上げ、アントワープの発展に寄与していきます。 活況に沸くアントワープに、ヨーロッパ中の資金が集まります。ジェノヴァの豊富な資金も、将来性のあるアントワープへ流出し、16世紀半ばには、ジェノヴァは一時的に資金不足に陥ります。 ジェノヴァ債の金利はそれまで、4%前後で抑えられていましたが1555年、9%にまで跳ね上がっています(Sidney Homer、 Richard Sylla 『A History of Interest Rates 』)。 このときのジェノヴァ債の利回りの高騰は、ジェノヴァが融資支援していたカール5世(カルロス1世)がドイツ諸侯との戦争(シュマルカルデン戦争)に負けたことが直接の原因でした。 ジェノヴァの融資は焦げ付き、損失を発生させたため、ジェノヴァへのリスク・プレミアムが上乗せされ、金利高騰に襲われたのです。 また、アントワープがジェノヴァに代替する金融センターとして機能していたことも加わり、ジェノヴァの資金が急激に流出し、金利高騰を招きました。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書には『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)ほか。
『世界史は99%、経済でつくられる』 歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。 |
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