世界文化遺産から読み解く世界史【第23回:ゴシックがヨーロッパ文化を開花させた――ノートルダム大聖堂】

ノートルダム大聖堂(縮小)

ノートルダム大聖堂

ゴシック建築の傑作ノートルダム大聖堂

 ドイツ、フランス、スペインのゴシックという様式は、「ゴティコ=ゴート的な」という意味で、イタリア人が彼らの様式を「田舎者」という軽蔑的な意味を含めて呼んだ名称です。  ところが、このゴシックが、12世紀から13世紀において、たいへんすぐれた古典的彫刻を生んだというところに、ヨーロッパ文化の見事な開花があるのです。ヨーロッパ各地につくられたゴシックの教会堂の壮大さと精神性、美術、芸術は、人間の創造の粋を表しているといっても過言ではありません。  パリに行くとなれば、多くの方はノートルダム大聖堂に足を運ばれることでしょう。このノートルダム大聖堂も見事なゴシック建築の典型で、1163年に着工されて1345年頃に完成しました。奥行きが130メートル、身廊の幅が12メートル、高さ35メートルもあって、塔の高さは63メートルもあります。    これがシテ島の中心にあって、人々の心の中心ともなっているのです。これは、日本における東大寺の大仏殿がそれと同じ役割を果たしたように、パリの中心でもあったし、文化の創造に、経済を含めた人々のエネルギーが注がれた例であったと思います。  当時、西ヨーロッパでは三圃制という農業が行われていました。フランスは当時もいまも農業国ですが、この農業の新しい方式が富を生み、パリという都市で各地との物資の交流が盛んに行われ、その商業的な発展がヨーロッパに自立的な経済を生み出していきました。  一方で、織物などが各地で取り引きされて、フランスのリヨンやイタリアのフィレンツェ、あるいはベルギーなどで、織物工業が盛んになっていきました。ヨーロッパ各地でさまざまな工業が発達していくという、そういう時代がつくられていったのです。

近代の発祥はゴシックの時代

 このゴシックの時代に、ヨーロッパは各地に都市国家を形成していったのです。都市そのものの創造が行われたといいかえてもいいでしょう。中央には教会堂と広場を、その近くに市庁舎を、それから市民議会と市場を形成しました。そうした都市の基本を、ゴシックの時代にヨーロッパはつくり上げたのです。この都市の形成が、ヨーロッパ全体の文化の形成に重要な役割を果たしたのです。  ですから、近代の発祥はすべてこの時代、12世紀から13世紀のゴシックの時代であったといってもいいと思います。実際に、いま残されている素晴らしい建築も、このゴシックの時代につくられたものが多いのです。  中でも、彫刻の質の高さが、ゴシック文化の中心に位置づけられると思います。フランスのランス大聖堂、アミアン大聖堂、ドイツのバンベルク大聖堂などは、その代表例です。この時代、彫刻師たちはヨーロッパ各地を巡回していたようです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』ほか多数。
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