世界文化遺産から読み解く世界史【第26回:ゴシックの精神を表す人工の森――モン・サン・ミシェル】

モン・サン・ミッシェル(縮小)

モン・サン・ミッシェル

「西洋の驚異」とよばれる絶景の島

 フランスには、ノルマンディー地方に、モン・サン・ミシェルという修道院があります。小島の上に建てられた修道院で、まるで要塞のようです。  これは780年にアヴランシュの司教オベールがその夢の中で、大天使ミカエルに、ここに礼拝堂を建てるようお告げを受け、岩屋の上に礼拝堂を建てたことがその始まりだといわれています。その後、ノルマンディー公リチャード1世が、966年にベネディクト会修道院を創建すると、後にその聖堂の建設も開始され、1135年に完成し、その後も増改築が繰り返されて、今日のような姿になったといわれます。  ここは孤立した島で、満潮のときには周囲を海水が満たして渡ることができず、潮が引いたときには渡ることができるという、実に不思議なところです。  そうした自然条件から、この島は、14世紀の百年戦争(イギリスとフランスの間で行われた戦争)のときには、フランス側の城塞とされて、修道院は一時閉鎖されました。その後、16世紀に修道院が復活するわけです。  ここにもゴシック様式が取り入れられています。ですから非常に高い塔がつくられています。小島の上に、山を意識した聖堂がつくられているところにゴシックの精神がよく表されています。  現代では観光地の一つとして、多くの人がここを訪れていますが、もともとゴシックというのは、森や山のないところに、人工の森、山としての教会堂を建てるというイメージがその建築の中に込められているのです。  モン・サン・ミシェルはまさにその代表例で、日本の、海の中につくられた厳島神社と比較するとおもしろいと思います(「世界文化遺産から読み解く世界史」第11回・12回:モン・サン・ミシェルVS厳島神社を参照ください)。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』ほか多数。
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