白河館まほろんが面白い②――常設展示の「各時代の食卓」再現がいい!
悠久の時の流れを体感できる演出
まほろんの常設展示室の入口には、ジオラマで作られた郷土・福島の「めぐみの森」がある。この狙いについて、まほろんの『年報2001』では、以下のように記されている。 「文化財を産み出してきたのは私たちの祖先、その祖先の暮らしを育んできたのはふくしまの豊かな自然。その代表格は阿武隈川(あぶくまがわ)の源流のブナの森であろう。天の恵みがブナの森に蓄えられ、一滴一滴の雫が小さな流れとなり、やがて大きな阿武隈の流れとなって県域を貫き、流域の人々の暮らしが支えられてきた。それは旧石器時代から現代まで変わらず、そして未来も変わりはないだろう。……清冽な水と深い森こそが過去の人たちの文化を育み、その営みの中で文化財が産み出され、守り、伝えられてきたのである」(36ページ) これから歴史や文化財の展示を見ていく人に、「悠久の時の流れ」を体感してもらう意味で良い演出である。ちなみに、この『年報2001』は、どのようなコンセプトでまほろんの展示が作られたのか、開館に至るまでの考え抜かれた着眼点が詳しく説明されており、博物館に興味がある人には必読の資料である。まほろんのホームページから見ることができる。これ以降、この年報も参考にしながら常設展示のポイントを記述していく。 このめぐりの森を通り抜けると、「昭和40年代の食卓」コーナーがある。この狙いも面白い。親と子供が一緒にまほろんに来た時に、親世代に記憶がある昭和40年代の食卓風景を子供に話すことができる。歴史は、親から子へ、子から孫へと語り継がれていく物語でもある。日頃、子供との会話が少ない父親などにとっては、格好のテーマとなりうるのではないか。 次のコーナーは、「江戸時代」の農家の台所(かまど)を中心とした部分を再現している。現代から過去に遡るユニークな展示
さらに進むと「鎌倉・室町時代」の食卓風景だ。ここまで書いてくると、ピンとくる人がいると思う。このまほろんでは、現代から過去に遡(さかのぼ)って食卓風景を展示しているのだなと。そうなのである。 一般的な歴史博物館では、原始→古代→中世→近世→近代→現代という時間の流れを追って、時代順に展示するケースが多いのだが、ここの展示は、逆である。前述したように、「昭和」「江戸」「鎌倉・室町」時代と遡り、さらに「奈良・平安」「古墳」「弥生」「縄文」「旧石器」時代に遡っていく展示方法を取っている。 歴史展示において、オーソドックスな過去から現在への時代順が良いのか、現在から過去に遡る時代順が良いのかは、人によって好みが分かれるところである。ただ、このまほろんでは、小学校の社会科で歴史を学ぶ6年生が展示内容を理解できるように工夫しており、その際に、いきなり旧石器時代の暮らしぶりよりは、比較的馴染みのある昭和40年代から始める方が、身近に感じられるという判断をしたのであろう。これは一つの考え方である。 また、各コーナーの展示解説は、「150字と短くし、煩雑な解説は意図的に避けるようにした」(『年報2001』40ページ)とある。これも小学校6年生を意識してのことだ。 冒頭に「鎌倉・室町時代の食卓」を再現した展示の様子の画像を、左には、その解説文の画像を掲載した。解説文には、的確に振り仮名が振られ、子供の理解が促進される工夫がなされている。また、解説内容も的確だ。 中学校の歴史教科書でも、次のように記述されている。 「室町時代は、民衆や地方にも文化が広まり、今日に伝わる衣食住の生活文化が形づくられた時代でした。1日3食の習慣や、味噌やしょう油の使用、村祭りや盆踊りといった年中行事なども、このころ始まったものです」(平成27年3月検定済の育鵬社版中学校歴史教科書、93ページ) 【③に続く】(文責=育鵬社編集部M)ハッシュタグ
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