白河館まほろんが面白い⑤――「白河以北一山百文」への反骨精神と気概
野外展示も素晴らしい
まほろんの本館棟の前には体験広場があり、それを囲むように野外展示が行われている。これもまた良い展示であった。その内容は以下の通りだ。
東北の玄関口「白河」の気概
その年報には直接的には記されていないのだが、東北の玄関口である「白河」に歴史博物館をつくる以上は、それに相応しいミュージアムを作ろうという「気概」が感じられる展示施設である。 以下、話は横道に入る。白河と言えば、グルメの人には白河ラーメンで有名だが、歴史好きは奥州(おうしゅう)三関(さんせき)の一つである白河の関を思い浮かべる人もいるだろう。 この関は、奈良時代から平安時代頃の国境の関で、蝦夷(えみし)の南下や人や物資の往来を取りしまる機能を果たしたと考えられている。その後は関としての機能は失われていったが、奥羽(おうう、陸奥国=奥州と出羽国=羽州を合わせた地域で現在の東北地方に当たる)を旅する都の文化人のランドマーク(目印)の地となり、和歌や俳句で読まれることが多かった。 しかし、1868(慶応4)年に始まった戊辰戦争(ぼしんせんそう、維新政府軍と旧幕府派との間で行われた内戦)で、奥羽越(おううえつ)列藩(れっぱん)同盟(東北・北陸諸藩が結んだ反政府軍同盟)が次々に形勢不利となり、薩長(薩摩藩と長州藩)を中心とした維新政府軍に敗れた。 この頃に、東北地方をさげすむ趣旨で「白河以北一山百文」(しらかわいほく・ひとやまひゃくもん)という言葉が生まれたようである。つまり、白河以北の東北地方の土地は価値が低く、山ひとつでも百文程度の値段しかつかないという意味合いだという。 これに対して、宮城県では、「白河以北」の「河北」をあえて題字にした河北新報が1897(明治30)年に創刊され、「東北振興」と「不羈独立(ふきどくりつ。誰の援助も受けず独立の立場で言論の自由を守る)」を社是にして発展している。ここに白河以北の人々の反抗精神と気概を見ることができる。館を運営する人々の熱意と風通しの良さ
話は元に戻る。この白河館まほろんもまた、福島や東北、近隣の子供たちに歴史への興味を持ってもらいたいという「気概」をもって開館されたように感じた。 しかし、その気概を維持していくのは、館を運営する人々の熱意である。このまほろんを訪問した折は、ちょうど館長講演会があった日であり、事前にその催しについての参加方法を電話でお尋ねしたところ、関心があれば展示内容について学芸員が説明する旨のお話をいただいた。 当日、受付でその旨をお話ししたところ、すぐさま新進気鋭の学芸員の方を紹介してもらい常設展示を中心にご案内いただいた。学識が深く実に要を得た解説であり、展示の内容を深く知ることができた。多謝! このまほろんは、博物館の運営面から垣間見た時に「老・壮・青」のバランスが上手く取れ、風通しの良い組織のように感じられた。 館長の老、館を具体的に運営する責任者世代の壮、また、「JOMONワンダーランド」といった思い切った展示を企画立案する中堅の学芸員、そして、当日ご案内いただいた優秀な青年学芸員。こうした老・壮・青の人々の努力がうまくかみ合い、まほろんの開館当時のコンセプトが脈々と維持されていると感じた。 まほろんにはお願いが一つだけある。常設展示図録を作成してもらい、1000円から1200円ほどで販売していただけないものかと思う。これだけ中身のある展示をしており、復習したい時に手元にあれば役に立つ。児童・生徒を引率してきた先生方も、学校に戻り復習の授業をする際に役立つはずだ。ニーズは高いと思われるので、何卒ご検討のほどを。「白河以北百花繚乱」
ところで、東北地方は平成23(2001)年3月11日の東日本大震災で激甚な被害をこうむり、また、東京電力の福島第一原子力発電所で発生した炉心溶融(ろしんようゆう。メルトダウン)により、広範な地域に放射能汚染がもたらされた。廃炉への取り組みがなされているが、汚染水の処理など解決に向け課題が山積している。 その大災害から7年余が経過した。私たちにできることは、福島県のこのまほろんを訪ね、あるいは足をのばし2万年前の旧石器時代の樹木がそのまま保存されている「地底の森ミュージアム」(宮城県仙台市)や東北歴史博物館(宮城県多賀城市)などを見学し、東北の豊かな歴史を知ることではないか。さらに言えば、福島県内には効能に優れた温泉地も多く、そこに宿泊して地元の食材をいただくことだと思う。筆者も福島県の飯坂(いいざか)温泉に宿泊し、名湯につかり美食を楽しんだ。 また、この5月には新酒の出来栄えを競う「全国新酒鑑評会」で福島県の日本酒が全国最多の19銘柄で金賞を受賞し、金賞の数で史上初となる6年連続日本一を達成した。福島県の酒は実に美味しいと言っていた知人の言葉を思い出す。 さて、若くして「生と死」のテーマに直面しながら逞(たくま)しく生きる「白河以北」の人々が、こうしたまほろんなどで旧石器時代以降の「悠久の時の流れ」の中での自分の位置づけを体感し歴史感覚を磨き、その結果、優れた人材となりわが国の将来を担っていくことを見守れればと思う。 そうだ、「白河以北百花繚乱(ひゃっかりょうらん)」だ。(了)(文責=育鵬社編集部M)ハッシュタグ
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