独裁を目ざそうとする習近平の野望⑤

米中首脳会談

習近平の死角

 独裁的な権力を手にしたとみられる中国の習近平主席であるが、中国問題に関して数多くの書籍を出している評論家の宮崎正弘氏は、近著『習近平の死角――独裁皇帝は間違いなく中国を自滅させる』(育鵬社刊)のなかで、彼の独裁維持への疑問を取りあげた。  同書で指摘している宮崎氏の5つの懸念とは、第1に「中国外交の布陣の不協和音」。第2に「軍暴走の可能性」。第3は「派閥争いの再燃」。第4は「米中貿易戦争の拡大」。第5は「中国の国内経済の先行き不安」というものだ。  ますは、第1の中国外交の不協和音について。中国の経済外交は劉鶴(副首相)が中心に位置しており、彼を楊潔篪(国務委員)と王毅(外相兼国務委員)が支える体制である。  しかしながら、実際の外交の中心にいるのは王岐山と見られている。政治局常務委員を定年で外れたにもかかわらず、王は国家副主席となった。これは腐敗追放の責任者として習近平の政敵を追放したことで、習近平の独裁への道を開いたという論功行賞と考えられている。  第2はやはり、軍を押さえきれていないと見られており、そこが懸念材料としてみられている。例えば、習近平のインド訪問の際、モディの誕生日に中国軍がインド国境を越えて、モディが不快感を表したという出来事が象徴している。  第3の派閥争い。習近平は「団派」に対して、孫政才(前政治局員、重慶特別視書記)を失脚させ、李源潮(前国家副主席)と引退させるなど追い詰めはした。しかし、ライバルである李克強は首相に留まり、次代のホープである胡春華を副首相に登用せざるを得なかったように人事面で妥協をはかった。  第4の米中貿易戦争。トランプ米大統領が本気で中国と貿易戦争を構える姿勢を見せている。対米貿易黒字を失えば中国経済は一気に冷え込む。加えてトランプ政権は、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)に対して、米国内での販売、設備使用を禁止したのだ。  第5は中国国内経済の先行き不安。例えば、不動産バブルの崩壊は数年にわたって論じらている。同じく、公共事業への無謀な投資のツケによる債務償還が始まるとリーマンショックを超えるような大暴落が起こると思われる。  同書で宮崎氏は「この矛盾を回避するために習近平は『手頃な戦争』を仕掛ける可能性が高まっている」と指摘する。これらが習近平の独裁に待ったをかけるというものだ。

中国国内で変化の兆し

 7月19日の「現代ビジネス」において、日本国際問題研究所客員研究員の津上俊哉氏が「米中貿易戦争激化で、ついに習近平に『激烈批判』が続出」という記事を載せた。  津上氏の記事のかなで、「人民日報第1面に「習近平」の名前が見当たらなかった(7月9日)」ことと、「学習時報(新華社傘下)が、個人崇拝を許した華国鋒による自己批判と現役指導者の肖像掲出禁止令の故事を紹介(7月11日)」を取り上げて、中国国内の習近平に対する批判の徴候を指摘している。  習近平の独裁強化と並行して、北朝鮮の核問題は激化していた。しかし、この問題で中国はなかなか主導権を握ることはできていなかった。習近平に関するニュースが減ってきていたさなか、中国国内の習近平に対する風向きが変わり始めたのか。いずれにしろ、その引き金をトランプ大統領が引いたのは間違いない。
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