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NATOに加盟できなかったウクライナを襲った悲劇
2019年02月28日
NATOに加盟できなかったウクライナを襲った悲劇
グレンコ・アンドリー
<文/グレンコ・アンドリー『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』連載第19回>
NATOに加盟できなかったウクライナとジョージア
NATO軍
さてウクライナはどうだったのであろうか。ウクライナにおいても長年にわたって、NATO加盟の必要性を巡って激しい議論が繰り広げられていた。2014年までのおおまかな構図としては、保守派と独立派が加盟に賛成であり、それ以外は反対だった。 また国民世論も、おおよそ六割は加盟反対であった。反対の理由としては、「NATOの戦争に巻き込まれる」「NATOに支配される」「軍事費が増える」といった、まったく根拠のない嘘やプロパガンダであった。真に残念ながら、ロシアや親露派にコントロールされていた言論空間においては、真実の声はあまり国民に届かずに、国民の多くは騙され続けていた。 もう一つの反対の理由とは「ロシアの反発」「ロシアとの関係悪化」であった。もちろん、ウクライナがNATOに加盟すれば、当然ロシアの反発は不可避であろう。だが、それを気にすること自体、当時のウクライナ人の極めて強い属国根性の表れであると言わざるを得ない。 ただし、仮に当時のウクライナ世論がNATO加盟に肯定的だったとしても、あのときウクライナのNATO加盟は不可能だったのだ。
ロシアに配慮するNATO加盟国
なぜなら、ウクライナ国内だけではなく、根性のない、弱腰のヨーロッパ諸国までロシアの反発を恐れて、ロシアに配慮していたからだ。 実際にウクライナは一度、NATO加盟を試みたことがある。2008年4月2日から4日まで、ルーマニアの首都、ブカレストでNATOのサミットが行われた。そのサミットの前に、ウクライナ、そして同じ旧ソ連のジョージア(旧名:グルジア)がNATO加盟のための行動計画への参加を申請した。NATO加盟のための行動計画とは、NATO加盟そのものではないが、加盟の準備段階であり、それに参加する国は、将来NATOに加盟するという前提で、NATO側との緊密に協力しながらさまざまな改革や準備を行っている過程である。 もしこのウクライナとジョージアの申請が承認されたら、両国はいずれNATOに加盟できたと考えられる。しかし、両国の申請は拒否された。 ドイツとフランスが拒否権を発動したのだ。そのサミットにはゲストとしてロシアのプーチン大統領も誘われており、彼はその場でウクライナとジョージアの行動計画への参加に強く反発した。その時ドイツとフランスはロシアの圧力に屈したのだ。その結果、あれ以来、ウクライナとジョージアはNATOに参加できないままである。 その後、何が起きたのか。サミットの4カ月後、ロシアはジョージアに侵略し、ジョージアの領土の一部を占領した。あれから既に10年以上経っているが、そのジョージアの領土はロシアに占領されたままである。 そして、その6年後、ロシアはウクライナへ侵略し、一部の領土を占領し、その戦争は現在に至っても続いている。 では、もしその2008年4月のサミットで、ウクライナとジョージアの申請が承認された場合は、戦争が免れたのだろうか。
NATO加盟国バルト三国をロシアは攻撃できない
この疑問に答えるにはバルト三国の例を見ればいいのだ。バルト三国、即ちリトアニア、ラトビアとエストニアは、ウクライナやジョージアと同じく旧ソ連構成国であり、人口はそれぞれ、約280万人、200万人、130万人である。三国合わせても、その人口はウクライナの七分の一、面積は四分の一しかない。また、個別に計算すれば、いずれの国もジョージアより小さい。しかも、ラトビアとエストニアはロシアと陸続きで国境を接しており、両国の人口の四分の一はロシア民族である。そのロシア民族は当然バルト三国がロシアの支配下に入って欲しいし、何かあれば必ずロシアに全面的に強力するだろう。 当然、ロシア自身もバルト三国を支配したいという強い願望を持っている。このような状況では、圧倒的な力の差やロシア系住民の存在を考えれば、ロシアのような軍事大国にとって、バルト三国を制圧するのは非常に容易いものだ。 しかしロシアはバルト三国へ侵略できない。なぜなら、バルト三国はNATO加盟国だからだ。NATOに入っておけば、どんなに小さい国でも安全になる。なぜならその国が武力攻撃を受けた場合は、アメリカ合衆国やイギリス、フランスなどの軍事大国かつ核保有国が反撃するのだ。その反撃の恐れは最も効果的な抑止力となり、ロシアのような凶暴的な軍事大国であっても、簡単に手を出せないのだ。 バルト三国とウクライナ、ジョージアの違いとは、正に集団安全保障の枠に入っている国と入っていない国の違いだ。 集団安全保障の組織に入っておけば、どんなに小さい国でも安全でいられる。しかし入らなければ、自国を自分だけで守らなければならない。もし攻撃してきた敵の方が強かったら、どうしようもないのだ。 だから2008年にウクライナとジョージアのNATO加盟のための行動計画への参加申請が承認され、その後両国がNATOに加盟できたら、きっとウクライナもジョージアもロシアに侵略されず、領土や何千人の尊い命も奪われずに済んだであろう。
集団安全保障こそが平和を守る
それでは、この状況を日本はどう見るべきか。日本においても集団安全保障や集団的自衛権について議論が行われているが、反対派の論調はかつてのウクライナの反NATO派が主張していたことと酷似している。 しかし先述したように、事実は間逆だ。実際は集団安全保障が平和を維持している体制なのだ。日本における集団的自衛権行使反対の主張は、完全なデタラメであることをウクライナやヨーロッパの状況は明確に語っている。これも机上の空論や仮定、想像の話ではなく、実際に世界で起きていることなのだ。 では日本はどうすればいいのか。それは、なるべく、この東アジア・太平洋地域にNATOに近い集団安全保障、集団防衛の同盟を確立させるように働きかけるべきある。 たしかに、日本にはすでに日米安保条約がある。この点だけでも、今の日本の状況はウクライナよりマシである。しかし、日米安保だけでは不十分だ。一つは日米安保条約はNATOが基づく北大西洋条約と比べると、同盟国を守る義務が緩い。それぞれの条約の条文を確認してみよう。
日米安全保障条約第五条:
「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。」
北大西洋条約第五条:
「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。 」 この条文を見ると、北大西洋条約の方が実際に集団的自衛権が発動される可能性が高い。だから日本のこれからの課題とは、同盟国同士がお互いを守る義務が今よりも明確化された条約の締結である。
日米安保から多国間の集団安全保障体制構築へ
二つ目は日米安全保障条約はあくまで二カ国間の条約であるので、結局日本は安全保障の面ではアメリカ一国に依存しているような状況になってしまう。 しかし、一国だけに頼るのはやはり不安定だ。なぜならその相手国に将来何が起きるのか分からないからだ。例えば、大統領が突然、孤立主義を言い出して、安保条約を破棄する可能性も低いとはいえ、ゼロではない。このようなことはどの国にも起こりうることなのだが、もし相手が一国ではなく、多くの国家がある集合体であれば、仮に、その加盟国の一つがおかしくなったとしても、他の加盟国もある。 また、完全におかしくならなくても、相手が一国だけであれば、もしその国が万が一、条約の条文を無視して、自国を見捨てる場合は、安保条約はないに等しい状態になり、単独で戦うしかなくなる。しかし、多国間の条約であれば、仮にその中で一部の国が条約を守らない場合であっても、他の国が守ってくれるので、武力攻撃を受けた国は孤立した戦いを免れる。 つまり多国間の安全保障条約は二国間の安全保障条約よりは安定している。だからこそ、日本は積極的にアジア・太平洋地域で、多国間の集団防衛の義務がある安全保障条約の締結を促すべきである。 たしかに、この地域の国々では、ヨーロッパ諸国と比べたら国家間のバラツキが大きい。国家の発展度、人権や法の支配などについての価値観はかなり異なっている。 しかしそれでも、例えば、北米のアメリカ、カナダ、メキシコや南のオーストラリアとニュージーランド、または中国の脅威を恐れているベトナム、実際に中国に領土を占領されているフィリピン、共産主義者によって国を二分化された韓国など、安全保障においては共通の認識に辿り着ける国はある。
日本人に集団安全保障の重要性に気付いてほしい
以上のように、世界の経験からすれば、集団安全保障が平和を守り、単独防衛では平和維持がかなり難しいということが分かる。集団安全保障体制に入っていれば、戦争に巻き込まれる恐れはない。 だから、集団安全保障に反対している人たちは現実を知らない人、若しくはプロパガンダに騙された人、あるいは売国奴、若しくは侵略者の工作員、このどれかだと言わざるを得ない。 先述したウクライナの苦い経験を日本中に広めて、真の平和を妨害する嘘やプロパガンダを打ち砕けようではないか。そして真実を知らない、若しくは騙された善良な人に真実を知らせて、集団安全保障は日本にとっていかに大事かということを日本人大多数の共通認識にして、日本や東アジア・太平洋地域の平和維持に貢献しよう。
【グレンコ・アンドリー】
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。3月に初の著書
『プーチン幻想 「ロシアの正体」と日本の危機』
(PHP新書)を刊行予定。
グレンコ・アンドリー
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌
『明日への選択 平成30年10月号』
(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。
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『
プーチン幻想 「ロシアの正体」と日本の危機
』
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それでは、この状況を日本はどう見るべきか。日本においても集団安全保障や集団的自衛権について議論が行われているが、反対派の論調はかつてのウクライナの反NATO派が主張していたことと酷似している。 しかし先述したように、事実は間逆だ。実際は集団安全保障が平和を維持している体制なのだ。日本における集団的自衛権行使反対の主張は、完全なデタラメであることをウクライナやヨーロッパの状況は明確に語っている。これも机上の空論や仮定、想像の話ではなく、実際に世界で起きていることなのだ。 では日本はどうすればいいのか。それは、なるべく、この東アジア・太平洋地域にNATOに近い集団安全保障、集団防衛の同盟を確立させるように働きかけるべきある。 たしかに、日本にはすでに日米安保条約がある。この点だけでも、今の日本の状況はウクライナよりマシである。しかし、日米安保だけでは不十分だ。一つは日米安保条約はNATOが基づく北大西洋条約と比べると、同盟国を守る義務が緩い。それぞれの条約の条文を確認してみよう。 日米安全保障条約第五条: 「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。」 北大西洋条約第五条: 「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。 」 この条文を見ると、北大西洋条約の方が実際に集団的自衛権が発動される可能性が高い。だから日本のこれからの課題とは、同盟国同士がお互いを守る義務が今よりも明確化された条約の締結である。日米安保から多国間の集団安全保障体制構築へ
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