出版不況なのにマンガが売れているというのは本当か?

<文/橋本博 『教養としてのMANGA』連載第9回>

本は売れていないが、マンガは売れている?


スマートフォン向け電子コミックサービス「LINEマンガ」(LINE公式ブログより)


 出版界ではしばしば「本が売れない」という会話がされている。紙の本の推定販売金額を見てみると、もっとも高かったのが1996(平成8)年の2兆6564億円。2018(平成30)年は1兆5400億円(出版科学研究所調べ)、ピーク時の約半分にまで落ち込んでいる。

 しかし「本が売れない」と「マンガが売れない」は同じではない。近年、電子書籍が話題になっており、多くの人がスマホなどで電子コミックを読んでいるのを見かけるが、その売り上げを合わせると、なんとマンガはピーク時の1995年のとき以上に売れているのである。

 本は、紙媒体と電子書籍、2つの市場に大別される。電子で新聞や雑誌、書籍などを読むという考えはインターネットが普及する以前から存在していたが、電子書籍元年とされているのは、アップルの「iPad」が発売された2010(平成22)年。この年から、出版社のほかに、印刷会社や家電メーカー、取次代理店などが新規参入し、市場の活性化が起こった。

 2017年の紙の本の推定販売金額は1兆3700億円で、そのうちマンガの推定販売金額は2583億円。前年(2016年)の推定販売金額が2963億円であるから、前年比12.8%、つまり2桁減になったのだ。この落ち込みは過去最大であり、今後もしばらくの間、紙のマンガは落ち込み続けるだろう。まだ底は見えていない。

 その反面、電子書籍市場は成長を続けている。2014年、電子書籍でのマンガの推定販売金額は887億円だったが、2017年には1747億円にものぼった。

 紙媒体のマンガの推定販売金額が2583億円で、電子コミックが1747億円。まだまだ紙媒体のほうの売り上げが大きい。

2017年のコミック市場全体(単行本+コミック誌)の販売金額推移(全国出版協会)


 ところが単行本だけを比べてみると、2017年、電子コミックは、紙の本の売り上げを上回ったのである。

2017年のコミック単行本の販売金額推移(全国出版協会)


電子書籍市場はマンガが圧倒的シェア


 マンガは単行本と雑誌、2つに大別される。公益社団法人全国出版協会によれば、2017年の紙媒体の売り上げは、単行本が1666億円、雑誌が917億円となっている。同年の電子コミックは、単行本が1711億円、雑誌は36億円。つまり2017年の単行本の紙媒体と電子の売り上げを合計すると、3377億円にも上るのだ。

 そして1995年のマンガの売り上げは5864億円で、その内訳は単行本が2507億円、雑誌が3357億円。単行本に限れば、1995年の時よりも2017年のほうが800億円以上も売り上げているのである。

 ちなみに電子書籍市場での売り上げは8割以上がマンガ。インプレス総合研究所の発表によれば、マンガが1845億円で市場シェアは82.3%、文字もの等(文芸・実用書・写真集等)が396億円で同17.7%としている(電子書籍市場規模のジャンル別内訳グラフ)。紙媒体でのマンガの市場シェアは20~23%程度だが、電子書籍はマンガがほとんどを占めているのである。

 今後も紙媒体は衰退を続けるだろうが、電子書籍時代は、マンガだけが生き残ることになる。つまり、「本が売れない」というのは、マンガ以外のジャンルのことなのだ。電子書籍を含めた出版産業は、マンガが非常に重要な役割を担うことになる。いささか極端かもしれないが、出版産業におけるマンガの市場シェアは近い将来、5割にまで到達する可能性も否定できない。

紙→電子へのメディアシフトによる過去の作品の〝買い替え特需″


 電子書籍におけるマンガ市場は、無料や値引きなどのキャンペーンが行われており、売り上げを更新し続けている。もっとも売れているのが、すでに連載が終了した過去の作品だ。現在、電子書籍市場には、かつてレコードからCD、またはビデオからLD、DVD、BDへとメディアシフトする際に起こった〝買い替え特需〟が吹き荒れているのである。

 1995年のマンガの売り上げは5864億円で、2017年は紙と電子の売り上げを合わせれば4330億円にも上る。ピーク時と比べれば4分の3にとどまっているが、本全体の売り上げは半分にまで落ち込んでいるわけだから、マンガは電子書籍にずいぶん救われていると言える。

 この〝買い替え特需〟によって、有名作品を多数持っている出版社は、しばらくの間は生きながらえることができるだろう。

 また買い替え以外にも、新規作品やエロやBL、TLなどもある。若い世代は、定期購読またはコレクションの際には、紙の本ではなく電子書籍になってしまっているのかもしれない。音楽市場はすでにそうなっていて、CDソフトを買うのは中高年以上の世代だ。

電子化の次の展開をどうするか


 電子書籍への移行によって、消費者は紙のマンガを処分する。その際、多くが古書店に売られている。かつてCDおよびDVDへのメディアシフトにあたって、レコードとビデオが大量に中古市場に溢れたように。

 そして、CD化およびDVD化されなかった作品は、忘れ去られたり中古市場で高値で取引されていたりするが、電子書籍化されないマンガも同様の流れとなるだろう。マンガ市場を予測するにあたっては、先行する他の市場が非常に参考になるのだ。

 音楽市場を見てみると、過去の名作の場合、初CD化、紙ジャケット、廉価盤再発などのほかに、リマスターやリミックスなどを施して再発するビジネスがある。マンガの場合、これに当たるのが、文庫化や愛蔵版、コンビニコミックなどであり、また完全版となる。

 完全版の特徴としては、雑誌掲載時のカラー原稿の完全再現や未収録原稿の収録、表紙の描き下ろしなどが上げられる。完全版コミックスの起点は、2001年に刊行された『SLAM DUNK 完全版』(集英社)。これは、メディアシフトによる買い替えとは別の需要だった。以降、『ドラゴンボール 完全版』をはじめとして多くの完全版コミックスが出版され、懐古ブームが起こった。

 だが電子コミックの場合、これらのような再販による利益が見込めない。やはり最初の販売は紙の本でなければ、アシスタント代など制作費の回収すら厳しいだろう。

電子化によりマンガはフルカラーが定番に


 ところでマンガは、週刊ペースによる発表と紙への印刷のため、モノクロが基本となっている。そこで電子書籍販売の際は、モノクロ原稿にデジタル着色を施した「カラー版」というものが登場している。

 特に『少年ジャンプ』(集英社)に連載された作品は、スクリーントーン使用を控えたものが少なくなく、そのおかげで着色に最適な画風の作品が多い。カラー版という形式は、先述の完全版コミックス以上に豪華な仕様と言える。今後、電子コミックは、モノクロ版とデジタル着色フルカラー版、2タイプの販売形態を取っていくことも考えられる。

 私個人はあまりカラーに魅力を感じず、モノクロで読むほうが読みやすいと思っている。そして電子ではなく紙で読みたい。特にマンガを描く人ほど、モニターの解像度が足りないことで、カケ網やスクリーントーンの網点などが潰れて観えることが気になっているようだ。

 しかし、マンガを紙でなくモニターで読むことが多勢になってしまえば、マンガがモノクロである理由はなくなってしまう。若い世代の多くは、マンガよりもアニメを観慣れていることもあって、カラーを歓迎しモノクロを敬遠する向きもありそうだ。

 もうひとつ、私が紙の本を好む理由がある。それは、紙の本は古書店に売って換金することができるが、電子書籍は売ることができない。紙の本と電子書籍の価格はあまり開きがなく、仮に読み捨てるのであれば、紙の本を買って、読後は古書店に売ったほうが安く読める作品もあるのだ(ただし高価買取の作品に限られる)。

コミック誌低迷が招く危機


 単行本は、過去作品を中心に売れていることは先述のとおりだ。しかしそれでも売り上げが1995年の4分の3にとどまっているのは、雑誌の方が壊滅的に売れていないからである。1995年に3357億円だった雑誌は、2017年には紙と電子合わせても953億円にまで落ち込んでしまった。

2017年のコミック誌の販売金額推移(全国出版協会)


 雑誌が売れないということは、新人マンガ家や連載中の作品が知られにくいということである。雑誌が売れていた時代は、雑誌に掲載されることが作品の宣伝としての効果を発揮していた。しかしあまり買われることのなくなった現在の雑誌に、宣伝効果は薄い。立ち読み読者も少なくないだろうが、彼らは目当ての作品しか読まないだろう。

 今、大手出版社がやるべきことは、早急に商業的に成功できる新たなマンガを生み出すことに尽きる。現在は過去作品の〝買い替え特需〟によって生きながらえているが、それが一段落すれば、出版社の命運を新規作品に託すしかなくなる。利益を上げている過去の名作を大事にするのは当然ではあるが、未来のためには、新規作品を育てていかなければならない。

 近年は高齢者と若者の間に横たわっている〝世代間格差〟が話題となっているが、これは高齢者を優遇するために若者から富を吸い上げる日本の社会構造を問題視するものだ。冷遇された若者(現役世代)は、結婚そして子どもを産み育てることを諦めて、少子化が非常に速い速度で進行している。

 日本の社会と政治は、少子化を速める過ちを犯した。出版産業はこのような過ちを回避するためにも、若手作家・新規作品に積極的に投資して、育てていかなければならない。

 若い彼らだけで、過去作品という強力な既得権に対抗できるだろうか。未来を切り開く役割を、若者だけに任せてはならない。まずは出版社が率先して、若手作家・新規作品を育てていかなければならないことは今さら言うまでもないだろう。

地方では発売日に本がない


 地方に住んでいると、首都圏在住者には見えない問題が見えることもある。

 2018年夏頃から『週刊少年ジャンプ』や『週刊少年マガジン』が1日遅れるようになり、単行本は首都圏の3日遅れで書店に並んでいたが、さらに遅れ、4日遅れとなった。私は『週刊少年ジャンプ』(集英社)連載中の『アクタージュ』4巻の発売を心待ちにしていたが、4日は長かった。どうやら福岡まではギリギリ遅れずに配送できているようだが、福岡と熊本の間に1日のタイムラグがあるようだ。

 その遅れの原因は、2018年7月、西日本を中心に台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨が起こり、広島県や岡山県などで土砂崩れや浸水の被害が相次ぎ、甚大な被害をもたらした「西日本豪雨」にあった。この災害の影響で、私が住む熊本では本の発売日が遅れるようになったのだ。

 ただし発売日が遅れるようになった原因は、災害だけではない。出版輸送業界は元々、運賃問題や人手不足に悩まされており、それらの問題が、立て続けの災害によっていよいよ対応できなくなり、輸送遅延そして発売日の遅れという形で表面化したということなのだ。

 そもそも物流とは、食料品、工業製品、農作物、お歳暮やお中元ほか個人の配送品など、すべての物にかかわる問題であり、近年〝流通パニック〟が大きな問題となっている。2017年10月、ヤマト運輸が27年ぶりとなる運賃の改定を行い、佐川急便と日本郵政もこれに続いた。運送業各社が運賃の値上げに踏み切ったのだ。

 そんな中で出版輸送は特に厳しいとされている。出版輸送から撤退する運送会社もあるようだ。その原因は、雑誌が売れなくなったこと。

 かつて人々は、グルメ情報やデートコース、映画情報、ほか様々な場合において、雑誌を買って情報を得ていた。ところが現在、情報収集はインターネットで出来るようになった。ならば雑誌を買う必要がなくなる。雑誌が売れなくなったのも致し方ないだろう。

 出版産業は近年まで雑誌が主役だったことから、出版輸送においても雑誌を前提としたシステムが構築されている。定期的に発行される雑誌で利益を出し、書籍は雑誌の配送網に、〝ついで〟〝おまけ〟として載せることで、安い配送コストで流通させているのだ。しかし利益を出していた雑誌が縮小すれば、利益が維持できなくなる。雑誌の〝ついで〟で配送していた書籍だけでは赤字になるというわけだ。つまり運送会社が出版輸送から撤退する理由は、運賃が安すぎることに起因するのだろう。

出版産業は岐路に立たされている


 雑誌が売れなくなった出版産業において、出版社は、利益の維持にあたって、単行本やムックの出版点数を増やすことで対応。これまで100点あった商品を150冊に増やせば、その50冊分の売上げでカバーできるというわけだ。また書き手のほうも、執筆量を増やすことで利益を維持しようとする。単行本やムックの出版点数が増えていったのは、出版社と書き手、両者の利害の一致によるものだ。

 1点あたりの売上げは小さくても良いということは、これまでは利益が見込めずに出せなかったマニア向けの本も出しやすくなったということでもある。もちろんそのようなギャンブルができる状況にはないだろうとは思うが、数千部の売上げが手堅いと推察されれば、マニア向け本の出版も可能となった。

 出版社や書き手は、労働量増加による書籍やムックの点数増加させることで利益の維持ができる。だが物流サイドからすれば、低い流通コストの本を大量に押し付けられているということになる。

 書店としても、少部数の本については対応が面倒だろう。書店で取り扱っていないならば、消費者はインターネットで買わざるを得ない。そこで、ネット販売の需要が高まるというわけだ。また地方では本の発売が遅れていることで、発売日を待ちきれない人がネット販売を利用するケースも少なくないと思われる。

 出版輸送は、大部数を前提とした出版物(大衆向け雑誌)に合わせて作られたものだ。だが、雑誌が衰退し、出版は少部数のものが多くを占めるようになり、さらにネット販売市場も拡大している。

 大規模流通を前提としていた出版輸送の価格設定に、いよいよ限界が来ている。もはや本の価格を上げるしかないわけだが、そうすればさらに出版の斜陽化は進むだろう。

【橋本博(はしもと・ひろし)】
NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト代表
昭和23(1948)年熊本生まれ。熊本大学卒業後、県庁職員などを経て、大手予備校講師。昭和62年絶版漫画専門店「キララ文庫」を開業(~平成27年)、人気漫画『金魚屋古書店』(芳崎せいむ、1~16巻、小学館)のモデルとなる。平成23年、文化遺産としてのマンガの保存・活用や、マンガの力による熊本の活性化を目指すNPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクトを立ち上げる。平成29年、30年以上にわたり収集した本を所蔵した「合志マンガミュージアム」を開館。崇城大学芸術学部マンガ表現コースの非常勤講師も務める。

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