港の整備が「まち」を作る: 小名浜の港湾イノベーション1

「シーズ先行・イノベーション」の愚

「イノベーション」というと、とかく「新技術の発明」が想起される。確かに、「新技術の発明」がイノベーション=革新をもたらすことはある。  産業革命は蒸気機関の発明によってもたらされたし、IT革命もIT技術の発明によってもたらされた。しかし、「新技術」というものはイノベーションという現象の「片面」でしかない。  というよりもむしろ、イノベーションが成立するうえで「新技術」は必ずしも必須ではない。なぜならどれだけ新しい発明が行われようとも、それが、世の中に何の変革ももたらさないのなら、それは結局イノベーションではないからである。  一方で、ありふれた技術であっても、それが全く違う文脈で活用され、世の中を構造的に変革させれば、一つの重大なイノベーションが生じたことになる。  そもそもイノベーションとは、社会の構造的な変革をいう。それが新技術の発明によって駆動されることもあれば、古い技術によってもたらされることもある。  むしろ技術の発明の有無を問わず、新しい技術やアイディアが「社会的に普及すること」や「それが適用され、社会の構造が変化すること」こそ、イノベーションの本質だ。  言い換えるなら、イノベーションという「社会の構造変革」は、技術者や科学者からの「技術の供給」(シーズ)と、一般社会における「技術の需要」(ニーズ)とがうまくマッチした時にはじめて生ずるものなのである。

イノベーションは「新技術の発明」ではない

 それにもかかわらず、冒頭で指摘したように、一般にはイノベーションといえば「新技術の発明」だと認識されてしまっている。  その結果、わが国では役に立つか立たぬか分からぬような場合によっては愚にも付かぬ些さ 末まつな「発明」や「研究」ばかりが奨励される一方、社会にさまざまな技術を上手に「はめて」いくことを通して社会変革を導こうとする努力がなおざりにされているやに見える。  いわゆる、イノベーションにおいて「ニーズ」(技術の需要)よりも「シーズ」(技術の供給)が重視される「シーズ先行」の愚がわが国においては繰り返されているのである。  このままの状態が続くなら日本はイノベーション後進国となってしまうだろう。だからわが国は今、イノベーションはニーズがなければ生じ得ないということを肝に銘じ、大局的な視座からニーズを把握しつつ、そのニーズを強烈に意識した技術開発と発明を目指すことが求められているのである。  この章ではそんな実効性ある「ニーズ先行」のイノベーションが静かに、しかし着実に展開している一つの事例を取り上げたい。「小名浜港」の港湾インフラ・イノベーションである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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