港の整備が「まち」を作る: 小名浜の港湾イノベーション4
小名浜港の変遷─ ( 3 ) 国家プロジェクトとしての「国際バルク戦略港湾」へ
そして現代─東日本大震災の福島第一原発の事故が起こってしまった今、好むと好まざるとにかかわらず、火力発電の国家的重要性が極限にまで肥大化してしまっているのが実状だ。 結果として、首都圏を中心とした東日本の都市活動、産業活動にとっての小名浜港の重要性は、ますます巨大化していくこととなる。 そうした流れのなかで、今、小名浜は、日本全体の石炭輸入を考えるうえで、東日本において「最も」重要な港湾として、「国際バルク戦略港湾」に選定され、効率的に石炭輸入を図るための公共投資が進められるに至った。 その結果として、先に紹介したように今、文字通り国内「最大」の水深18mの公共岸壁の整備が急ピッチで進められている。 これが完成すれば、これまで日本国内のどの公共埠頭にも寄港できなかった大型(12万t級)の石炭船の寄港が可能となる。 (なお、この港湾投資の延長として、さらに深い水深20mの岸壁を作ることも計画されている。そうなれば、超大型[17.5t級]の石炭船も受け入れることが可能となる) そもそもこれまでは、外国の港から「中型船」で、日本各地の港に石炭を運送せざるを得なかった。 しかし、小名浜港の水深18mの岸壁が完成すれば、外国の港から「大型の船」で小名浜港まで大量の石炭を運び込み、その小名浜港を起点に日本国内の各地の港に石炭を輸送することが可能となる。 (なお、小名浜港で大量の石炭を降ろせば、大型石炭船も軽くなり、水深が浅くなる。結果、大型石炭船でも、小名浜以外のより「浅い」港に寄港することも可能となる)海上輸送コストと電気料金の削減
いうまでもなく、大きな船で一括輸送すれば、同じ量の石炭をより「安く」輸送できることとなる。 国交省の試算によれば、今回の18m岸壁整備による石炭船大型化によって、石炭の海上輸送コストは実に4割程度も削減できると言われている。 そしてこのコストカットは電気料金の低減をもたらし、結果、日本経済の成長に貢献することになる。エネルギーは近代的活動すべてにとって不可欠なものであり、したがってそのコストカットの波及効果は甚大である。 逆にいうなら、エネルギー経費が高くなってしまうことは、ボディブローのようにその国の経済にダメージを長期的に与え続ける。 すなわち、この度の小名浜港の岸壁大水深化のための投資は、そうしたダメージを軽減する重要な意味を国家経済にもたらしているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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